Photo: tront star
欧州の難民問題の報道はめっきり減ったが現実には何も変化していない。この時期、観光客で賑わうはずのパリでは暴動と呼べる混乱がいたるところで起きていて、市民が巻き込まれる事件も発生している。また相変わらず命がけで地中海を渡り、イタリアに不法入国を試みる移民たちが荒波の犠牲者となり続けている。
不法移民の出発点はリビア
リビアからイタリア沿岸を目指す不法移民たちの乗った船が沈み、救助された人数は先週だけで1万2千人を超えた。無謀な掛けに命を託す中東、アフリカ、東アジアからの不法移民はこれからも続き、最終的には100万を超えると考えられている。彼らは数千キロに及ぶ道のりの苦難をひたすら耐え、良い生活環境にたどり着くことを信じている。
彼らにとって最も危険なのは地中海を今にも沈みそうな密航船で渡ることである。船が途中で転覆するか、浸水して沈没する危険性が高いのにもかかわらず、彼らは密航船に身を任せる。必然的に事故が起きて波にのまれたときにはじめて絶望のどん底に叩き落とされて、欧州と自分たちの間にある奈落の深さを思い知ることになる。
今週、シシリー島沖合で起きた救助の顛末はこれから続く不法移民たちの将来を暗示するかのようである。沈没しかけた密航船から540名のシリア、リビア、モロッコからの不法移民たちがイタリア海軍に救助され陸地に上がった。奇妙なことに彼らは待ち受けるテレビ局レポーター、国連事務官、赤十字、民間支援団体らに歓迎されると笑顔で答えた。
救助されるから生死を掛ける
数時間前に生死の境にあった不法移民たちには想像もつかない状況の変化であった。決して安くはない密航料金をリビアの密入国を取り仕切る組織に払い、命をかけた結果だが、イタリアに上陸できれば不満はない。しかし傾いて沈没したかけた密航船から240名が海に消え、残った300人はパニックに陥って、船をもとに戻そうと反対側に移動したが事態を悪化させるだけだった。結局、救助できたのは海に浮かんでいたごく一部だったが同様の遭難事故は珍しく無い。
しかしこのような話はシシリーに限ったものではない。先週、ノルウエイ海軍に救助されてサレルモに上陸した不法移民は1,000人だった。こうした不法移民たちは順番に移民申請書類を申請する長い行列をつくる。大半はリビアを起点としたナイジェリア、マリ、カメルーン、ソマリア、ガンピア、セネガルなど20カ国からの不法移民である。
彼らは移動が命がけであることは承知で、しかも成功する確率の方が高いと考えているからこそ大金を密航幇助組織に払い、危険な旅に出る。彼らは船が沈めば救助隊が助けるという期待を持っているからだ。ようやく不法移民を減らすためには、救助船を減らす必要があると各国が認識し、一部は引き上げを開始したが、昨年のイタリアへの不法移民の数は67,000で今年の3月までに106,000人となった。
不法移民の起源
最終的な欧州への不法移民は100万人を超える見込みである。この民族大移動は宗教の移動でもあり、改宗を認めないイスラム教が欧州を支配する可能性が高い。宗教、文化が欧州を塗り替えることに未来はあるのだろうか。今週、G7でキャメロン首相はイスラム教が勢力を増してきたリビア沖に海軍を派遣して警戒にあたると発言した。シリアでの米国同様、ガダフイを追放して政治を不安定にした自国の責任にはふれなかった。
不法移民問題の起源には米英の干渉があったことを認めずには、どのような対策も一時しのぎにしかならない。植民地政策同様に後進国に政治・軍事介入して権益を得るという図式に原因があることを認め、その解決を図ることしか不法移民の問題を解決する方策は無いようにみえる。
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