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メデイカル部門を売却した資金を半導体事業につぎ込んで、東芝が狙うのは同社が得意とする3D NAND型メモリ。真っ向からサムスンとぶつかるが、東芝は高密度メモリの鍵となる多層化技術とナノインプリント技術を軸に、サンデイスクと組んでサムスンに立ち向かう。
EUVリソグラフイに黄信号
EUVとは極端紫外線(Extreme ultraviolet)を光原に用いる次世代リソグラフイ技術である。リソグラフイの光原波長は露光の解像度すなわち微細加工スケールを決める重要因子(注1)である。企業や国の研究所で精力的な光原開発が行われているが進展が非常に遅い。ロードマップでは次世代技術の登場が決められておりこれまでは、難関と言われてきた技術もほぼ実用化されムーアの法則が一見順調に成立してきた。
(注1)最先端の露光では波長193nm(ArFエキシマレーザー)の紫外光をマスクを置いたフォトレジストに照射して感光部分をエッチングしてマスクパターンに対応した構造をシリコン基板に形成する。露光技術の解像度すなわち微細加工のスケールは光原の波長のほかにレジスト材料、光学系にまたがる膨大な因子が関わるので、一概に光原の波長のみで決まるものではない。こうした因子全てに渡る開発・改良を組み合わせでムーアの法則が成り立っている。
EUV光原は多価イオンの高い励起状態を作り出し遷移させることで発光させるが、高温高密度プラズマ状態で多価イオンを作るのが難しい。実際にはSnをイオン化するのには高出力レーザー(20kW)が必要になるが、エネルギー効率が悪く実用的なkWクラスのEYV光原の開発が遅々として進んでいない。
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研究室レベルでは上の写真のようなローレンスリバモア国立研究所のレーザー核融合技術を用いたり、最新の加速器(ERL)技術が提案されるなど、製造装置レベルから遠い先端技術である。インテルはリバモア研究所の開発したEUV光原を採用するとされるが、汎用の露光装置となるのかは不透明である。
東芝が目指す新技術ナノインプリント
EUV光原の実用化が遅れる中で新たな微細加工技術としてナノインプリント技術がある。そもそも露光技術ではマスクを転写するのにレジスト感光とエッチングという段階を踏むが、ナノインプリントではいわばナノスタンプを使ってパタ~ンを転写するより直接的な微細加工技術である。
歴史的には1995年に10nmのレジストパターンを熱転写してからロードマップでも次世代リソグラフイ技術として取り上げられるほどになった。東芝は1990年代後半から光ナノインプリント技術の研究開発を進め、20nm以下のレジストパターンをエッジラフネス2nmが可能な技術を擁している。東芝は経営難に陥って一部売却を行う中で、将来の柱を半導体事業と原子力事業(ウエスチングハウス社と自社の原子炉部門)に絞り込み、前者についてはメデイカル部門の売却益を中心に7-8千億円の投資を行うとしている。
しかし東芝はフラッシュメモリの製造にインプリントに手をだすなら失敗するいう意見もある。インプリント開発者には半導体露光についての知識蓄積がなく、半導体製造者のはインプリントの知識がないため、認識のずれが大きいからである。例えばアスペクトを稼ぐのであればレジストを多層に塗り、露光-エッジング-露光-エッチングで深くするのが現実的。ナノインプリント技術もEUV露光も20nm以下のスケールは困難さが比較にならない。研究開発と装置維持でコストが高騰するのは必至とすればリスクも決して低くはない。
東芝の3Dメモリ
2016年はムーアの法則がついに破綻し(インテルも認め)、高密度化の方向はメモリについては3D化が現実的となった。すでに3Dメモリはサムスンから市販されている。東芝はNAND型フラッシュメモリ市場(注2)で世界のトップに食い込んでいるが、スマホ市場が減速しているがフラッシュメモリ市場の将来性からナノインプリント技術を駆使した3Dメモリに絞り込み、リスクの少ない半導体製造でV字回復を狙う。高出力レーザーも加速器利用も(装置運用で見た)エネルギー効率が悪く半導体工場向きではない。
(注2)フラッシュメモリはまだ、製品にバラツキが大きく、極端に安いメーカーのものは信頼性が無い。そのため多少高くても実績のあるサンディスクや東芝を選ぶことになる。ニコンでも、動作確認はサンディスクやレキサーなどに限られる。プロカメラマンは大容量メモリにトラブルがあると、全データが読み出せないため、比較的安定して供給されている16~32GBぐらいを使うという。中国メーカーが品質の良い(競争力のある)フラッシュメモリを市場に供給するにはまだ時間がかかりそうだ。
2013年に出荷が開始されたサムスンの3Dメモリは24層から32層スタッキングへと改良され、48層技術で東芝と真っ向勝負となる。技術的にはいち早く市販化した3Dメモリを世代を重ねながらスタック数を48層まで拡張してきたサムスンに対し、東芝はスタック技術を一般化して一気に48層から市販する戦略に出る。簡単に言えばサムスンが一歩づつ駒を進めてきたのに対し、技術そのものを磨いて一気に勝負に出る東芝という図式となる。
3Dメモリ市場は48層メモリでSamsung、東芝―サンデイスク連合が激突するがこれを追いかけるインテル―マイクロン連合も2グループを追い上げることで、3Dメモリ市場の競争は三つ巴になる。ただしインテル―マイクロン連合は32層までなので48層は東芝とサムスンの2強の独占となる。
3DメモリによってHDDの容量を上回る10TBクラスのSSDが安価に出回れば、人間の脳の記憶容量を遥かに超える記憶媒体が身近な存在となり、データセンターやビッグデータ産業の発展につながると期待される。コストメリットで32層に軍配があがるか、48層以上の多層で初めて東芝の技術に強みが出ると思われる。
大容量メモリは製造リスクが高いので、大容量を一個のメモリにするより中規模容量のメモリを並列で使う方が現実的と言える。大容量化すると必然的に高額になるので、投資を回収できるほど売れるかはわからない。また、新しいプロセスで作るとなると、耐久性にも問題が出るはずなので、危機にある企業が手を出すべきではない。韓国のレキサーは比較的安く、不良率も低いようなので東芝、サンディスクは危機感を持っているだろうが、半導体と原子力の二本立てはリスクが高すぎる。