Photo: Car & Driver
テスラ社のEVの人気は運動性能、航続距離、デザインがこれまでのEVの殻を突き破り、0-100km加速が3.0秒というポルシェ911GT3の3.3秒を上回る加速力に代表されるスーパースポーツばりの運動性能には車好きの若い世代を魅了した。また航続距離も500kmと実用的で、自動運転ソフトなど先進的な機能とデザインに未来を感じた人々は二つのモデルに殺到した。しかし高級車カテゴリーとなる価格帯であったが、それでも年間5万台と今回の好調な受注を予想させるものだった。
テスラ社の第一号はスポーツカーであったが、オープンスポーツではあったが実験的な意味合いが濃く、より高性能のスポーツEVは空白のカテゴリーであった。そこに中国資本の新鋭EV専門ベンチャー、ファラデイ・フューチャー(FF)社が最高速度321km(注2)のスーパースポーツEV、FFZERO1コンセプトを登場させた。FF社は販売前から大量生産のため巨大な工場をテスラ社と同じくネヴァダ州に建設する。販売の予測が困難なEV車の生産規模を最初から10万台規模にする無謀な設備投資なのだろうか。ちなみにファラデイは電気化学の父と呼ばれる英国の有名な化学者の名前からとった。テスラ社がニコラ・テスラに所以するのと同じである。
(注2)テスラ社モデルSは最高速250km。ポルシェ911GT3の最高速度は310km。スーパースポーツと呼ばれるにはオーバー300kmが必要になる。ただし最高速はすでに1,000馬力以上で可能なオーバー400kmの世界に到達している。
700人の社員を雇用するFF社の建設する未来的な工場は(テスラ社のギガファクトリーを超えて)世界最大の建築物となる。2018年に完成予定のギガファクトリーの建設コストは10億ドル(1,080億円)となるが、ネヴァダ州が30%の助成金など手厚い支援で協力する。なぜテスラ社やFF社といった新興自動車メーカーがネヴァダ州に工場を立地するかといえば、固定資産税や売り上げ税の免除を含む税金優遇措置にある。ネヴァダ州はラスベガスのカジノ・ホテルの収入に依存しないために製造業を呼び込む政策をとったが、その「タックス・ヘイブン」政策が功を奏した。
秘密のヴェールに包まれたFF社の真意はもちろん希少価値があるとはいえ需要に限界のあるスーパースポーツEVではなく、自動運転の一般向けEVの大量生産にある。テスラ社のEVにもオートパイロットというハイウエイ走行の自動運転シウステムがあり、好評であるが同社は完全な(レベル4)自立走行の自動運転EVを目指す。
州政府と地域行政の補助を背景にしたギガファクトリー誘致が進めばネヴァダ州の雇用と経済活性化につながるとともに、閉塞感の強まる米国製造業もEV普及によって活性化されるきっかけになるかもしれない。もともとカリフォルニア州の企業だったテスラ社とFF社はがネヴァダ州に新規工場立地に選んだ。テスラ社はギガファクトリーで6,500名、FF社は4,500名の従業員を雇用する。
FF社はインフラ整備に7,500万ドル(約81億円)の投資を行うが、資金は中国人資産家のもの。テスラ社はギガファクトリーに50億ドル(約5,400億円)を出資する。この2社の将来はEVの普及にかかっている。インフラに依存するためEVの本格的な普及率は未知数であるが、テスラ社のEVの成功に続くFF社の参入で自動車産業の変革が始まったと捉えるべきかもしれない。
Credit: Faraday Future