CERNが実験データをオープンアクセス化

25.04.2016

Photo: BBC

 

CERNが300Tバイトに及ぶLHCのCMS実験データをネット上で公開した。CMS実験データは解析が一通り済んだもので、社会に広く生データを公開すれば世界最先端科学を教材として提供することで社会貢献できるとCMS実験責任者は説明する。2011年からCMS実験で得られたデータの約半分に相当するこれらの貴重なデータはほとんどが7TeV(注1)での陽子-陽子衝突実験のもので、この時期に発表される真意について憶測を呼んでいる。

 

(注1)周長27kmで世界最大の円形加速器LHCはアップグレードで7TeVのエネルギーが13TeVに倍増され、現在は13TeVで運転が行われている。7TeVの実験データはアップグレード以前のものになるが、ヒッグス粒子確認に結びついたのはCMS実験とATLAS実験(独立した検出系)でそれぞれ世界中の研究者・研究機関の協力の賜物であった。

 

ダン・ブラウンの小説を基につくられた、映画「2012年」ではLHCでつくられた反物質が盗難され悪用されるシーンがある。LHCが反物質を観測しようしていること自身は事実である。しかし質量と不安定性から現実的なリスクはないのだが、危険な実験だとする意見や批判が沸き起こった。小説や映画はそれに火をつけて世界中の話題となった。

 

オープンアクセスと呼ばれる論文(注2)はネット上で誰でも読むことができるし結晶構造解析データは構造解析論文と一緒に公開する。また詳細なデータを論文の根拠として同時に公開することも行われている。

 

(注2)2万7,000にも及ぶ論文を掲載する雑誌のうち、学会が出版するものは出版費用を学会が負担する。一方、商業誌では著者が高額な出版費用を負担し、Natureなど高IFの雑誌ではオープンアクセスを指定するとさらに高額(一本約20万~40万円)になる。現実的には人類が共有すべき学術情報の公開には費用が発生する。

 

CERNが公表したCMS実験データは生データとそこから抽出されたデータからなり、生データを解析するツールもCERNはGitHubで公開している。しかし最近頻発する地震や異常気候などの原因をHAARPやLHC実験に押し付ける人たちもいる。これにはCERNの建物の前にヒンズー教の破壊の神であるシヴァ神の像(写真)が建てられ、加速器が完成すると職員がその前でシヴァの祈りの踊りを行うなど先端科学と縁遠いはずのカルト的な文化が存在することも疑惑を深めた理由である。

 

 

Photo: residualstore

 

もちろんCERNのシヴァ神に掛ける思いは「既成概念」を破壊して新しい科学を創造する象徴である。しかし一方では災害(地震)とLHC衝突実験との時系列の奇妙な一致も指摘されている。この懐疑を晴らすことはLHCが今後10年にわたって改良を続けて加速器実験の先端を維持するための予算獲得には絶対条件であったのだろう。いずれにしても人類にとって先端科学に直に触れる機会が与えられたことの意義は大きい。これをきっかけにすべての論文のオープンアクセス化が加速されることが望ましい。