Credit: IBM
量子計算機の研究開発が各国で精力的に進められているが、多くは大学・研究所や開発を公言しているGoogleの話だと思われていたが、IBM(ヨークタウンハイツ)は量子計算機システムのオンラインサービスを公表した。これにより誰でも量子計算機が使用できるようになる。もちろん個人が量子計算機を所有して使いこなすのはまだ先だが、少なくとも非ノイマン型計算機が実用化されたこととそのオンラインサービスが開始されたことで計算機が新しい時代に入ったことを象徴している。
アプリソフトではβ版を販売前に公開して使い勝手のレビューやデバグに効果を上げている。量子計算機の専門家は開発された計算機を一般のユーザーに開放することで、開発者が想定していない新たな使用法や量子計算機の振る舞いの知見が得られると期待している。例えばDNA配列の決定や株式市場予測の分野で量子計算機の活躍が期待される。
分子同士の相互作用や”Deep Learning”と呼ばれるAIの理解・学習機能のような複雑系で量子計算機の能力が発揮される。そのためGoogleやNASAは”d-wave machine”と呼ぶ量子計算機開発プロジェクトに1,000万ドル(日本円で約10億円)もの予算をつぎ込んでいる。
今日の計算機は全て2進法による演算(バイナリ演算)に基づいているが、
30年前に研究者は”bit”に変わる”qubit”演算の量子計算の概念を提案した。1qubitは1か0両方の情報を持ち、2qubitは00,01、10…というように4bit情報を同時に持つことができる。量子計算機はしかしこれまで実現しなかった。
Credit: Extreme TECH
上の写真はGoogleの量子計算機チップ。IBMの開発した量子計算機も同様の超伝導素子を用いた5qubit回路で、将来的には50-100qbitの回路を開発する。5qubitの量子計算機システムは使い易いフロントエンドを持ち、ユーザーが容易にプログラミングできる。従来型計算機では1秒間の演算速度が競われるが量子計算機では結果は確率で表現される。今までのところ同一条件での再現性は高く信頼性が高い。
IBMは超伝導素子(ジョセフソンデバイス)の研究開発を断念したが、超伝導素子を製造する技術は実績があり、量子計算チップに姿を変えて超伝導素子は復活することになった。
量子計算オンラインサービスにより量子計算機の優位な分野が増えればより大規模な50-100qubitクラスの計算機が開発され、量子計算アルゴリズムがオープンソース開発が軌道に乗る。ユーザーに開放して性能を認識させ本格モデルの開発を加速すること(注1)は賢い決断と言えるだろう。
(注1)量産車を販売する前に圧倒的な性能EVをいち早く市場に出して、ユーザーの反応を確かめ本格モデルへの期待を掻き立てて資金を集め、量産車生産を実現するテスラ社のビジネスモデルに似ている。