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「停止すれば損害賠償訴訟で訴えられる」と脅し、「原発再稼働しか選択肢がない」として譲らない人たちがいる。そういう人たちは、再生可能エネルギーはベース電源に不適で、原子力は温室効果ガスを排出しないと決めつける。もちろんどちらも正しくない。
100基以上原子炉を有する原子力大国米国やフランスでも、安全性が高いとされる新型原子炉の建設が遅々として進まない。またギャラップ調査によると米国民の過半数が初めて半原子力となった。採算性が売り物であった原子炉だが、核廃棄物処理と廃炉費用を含めればこれまでの評価は一転する。再生可能エネルギー(太陽光発電)の時間変動を補う技術の一つが家庭用バッテリーパックである。
太陽光発電能力は正午をピークとして夜間はゼロに下がる。一方、都市部の電力需要は二つのピークがあり一つは午前中、さらに大きいピークは夕方から始まる。早朝の太陽光発電量は低く夕方も落ち込むため、発電量と電力需要が一致しないことになる。「ベース電源にならない」という意味は発電と需要のピークが逆位相である、という意味で再生可能エネルギーの発電能力が劣っているわけではないのである。
イーロン・マスクのテスラ社は成功したEV用のバッテリーパックを家庭用の蓄電に使うための「ウオールパワー」と呼ばれるバッテリシステムを販売している。ウオールパワーより以前にも個人でバッテリーバンクを作る人たちはいたが、鉛蓄電池で実用的なバッテリーバンクを作ると巨大で地下室を占領するほどになる。
テスラ社のEVのバッテリーは航続距離が650kmと日産リーフの3倍近くにもなる。その秘密はPC用に開発されたリチウムイノオンバッテチー(パナソニック製)を7,000個集めて作るバッテリーパックである(注1)。イーロン・マスクはこのバッテリーパックを家庭用に販売することを考えた。
(注1)パナソニックがテスラ社EV向けに供給しているのは「18650」と呼ぶ直径18mm、高さ65mmの円筒形でテスラ社にパナソニックは20億本を納入する。18650が7,000個で85kWhの容量を持つ。
ウオールパワーの仕様は以下のようなものになる。
10 kWh 3,500ドル(日本円で約38万円)
7 kWh 3,000ドル(日本円で約32万円)
インバーター無しで重量100kg
10年保障付き
連続2.0kW、最大3.3kW出力可能
電圧350-450ボルト、5-8.5アンペア
家庭での電力消費は出勤前に電子レンジとトースターを同時に使用した時、ほぼ2.3kWなのでほぼいっぱいになる。冷蔵庫やヒーターあるいはエアコンなどを考慮に入れると1モジュールでは不足気味だが、モジュール2台では十分だ。つまり一般家庭の早朝と夕方及び夜間電力は10kWhモジュール2台、20kWhで供給できる。
平均的な戸建ての屋根に太陽光パネルを設置するコストはkWあたり25-30万円なので、平均的な10kWパネルで250-300万円となる。補助金制度や新築時にソーラーパネルを導入するなどすれば、日中充電して電力需要ピークと夜間にウオールパネルで電力を供給すれば、電力契約が不要となる。日本では太陽光発電をしても売電してしまう家庭が多いが、自給自活が可能になれば電力網も発電設備も負荷が少なくなる。
バッッテリーパック以外にもLPGや石炭を燃焼し(注2)、エネルギーを溶融塩で熱エネルギーとして蓄えておけば、必要に応じて熱ネルギー変換効率の高いコンバインドサイクル発電で電気に戻すことが可能である。こうした蓄電、蓄熱で発電ピークと需要うピークの位相を合わせれば、再生可能エネルギー利用はベース電源に不向きとは言えなくなる。新技術を使いこなせば原子力にこだわる理由はなくなる。
電力送電網(グリッド)が脆弱な米国ではグリッドに頼らない(オフグリッド)生活スタイルを模索する人たちが増えている。冷戦時は核攻撃に備えるためであったが現在は金融危機で銀行封鎖と暴動などの社会混乱に陥るリスクが高まったせいだ。オフグリッド化に使われる再生可能エネルギーの弱点であった不安定性が解消される。
(注2)クリーンコールや超臨界CO2タービン発電などの新技術はウラン採掘から廃棄までを含めた原子力発電より温室ガス排出量が低い。