ヒトDNA編集が容認へ

25.06.2016

Photo: Nature Commun. News 22 June 2016

 

米国で動物に対して行われている「DNA配列の編集」が世界で初めてヒトDNAに対しても認可される。このほどNIHは細菌を利用したDNA編集ツールCRISPR(注1)の癌治療を目的としたヒトDNAへの適用を認めた。これにより将来ヒトの免疫細胞が癌細胞を標的とした攻撃(免疫療法)が有効に行えるようになると期待されている。

 

(注1CRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)はDNAの塩基配列が反復される場所を意味する略表記。最大30に及ぶ塩基配列がくり返される場所が存在する。DNA配列が確定している40%の細菌類と90%の古細菌でその存在が確認されている。

 

 

Image: CRISPR-P

 

開発資金は元Facebook会長であったショーン・パーカー氏が25千万ドル(日本円で約270億円)で設立した免疫療法財団が拠出する。パーカー氏によればこの試みは免疫療法における「マンハッタン計画」(のようなインパクトを持つもの)だとしている。

 

しかしNIHの認可が出ても実施には連邦政府(厚生省)の認可が必要となる。細菌で発見されたCRISPR(上図)は生物医学研究者が未来の免疫療法として期待しているDNA配列の編集技術。すでにヒトDNA以外では幅広く使われている。

 

 

DNA切断酵素と切断箇所を示すタグが使われ、タグのついた箇所を編集することで、酵素がどの配列を切断するのかを指定することができる。この計画では癌細胞を標的とした免疫療法を最終目標としている。

 

 

そのため実験では種類の異なるT細胞を持つ18名の患者の免疫細胞DNA配列をCRISPRを用いて編集する。編集後の免疫細胞は特定の癌細胞を認識することができるようになり、増殖前に死滅させる。しかし患者のDNAが目的以外の箇所の変更がなされる危険性もあるため、安全性の確立が課題となっている(Nature News 22 June 2016)。