Photo: MIT
葉緑素は太陽エネルギーを使って空気中のCO2を取り込み(固定)ショ糖をつくる一方で、水を分解し酸素を生み出す。酸素を呼吸する動物たちはCO2を大気に戻すが、そのCO2を木々や植物がショ糖を生産し、酸素を元に戻すから生きていける。33年間の衛星データを整理した最近の研究によれば、この33年間で32%緑地が増えたが、その70%はCO2が増大したため、光合成能力が環境に適応したためだということがわかった。
つまり地球温暖化ではなくCO2が増えたことが緑地を増やして光合成能力を増大させたということになる。CO2はこれまで地球温暖化の原因とされて目の敵にされることが多かったが。環境適応適応能力を備えた植物の葉が機能して排出されたCO2を余計に、取り込みショ糖に変え酸素を放出して浄化作用をしてきたことになる。
人工葉とは
増え続けるCO2を減らすために太陽エネルギーを使って、空気中のCO2固定や、水分解を光合成に習って人工的に起こす技術の開発が精力的に行われている。まだ人工光合成のエネルギー変換効率は0.1%と低いが、後者は太陽光パネルによる電気分解と光触媒のふたつのアプローチが研究されている。MITの研究グループは人工葉(Artificial Leaf)と呼ばれる両者を組み併せたデバイスを開発した。
これまで太陽光パネルの両面に電極を蒸着しただけの太陽光電気分解システム(ワイアレス型)は存在した。これは太陽光を吸収したパネルの起電力を水の電気分解に応用したもので、酸素と水素に分解するために必要な自由エネルギー1.2eVをパネルの起電力で得るものである。水中におかれたパネルに太陽光を当てるとカソードから水素が、アノードから酸素が発生する。両極を仕切れば酸素と水素ガスを別々に集めることができる。
MITの研究グループはこの電極に触媒を使うことを考えた(下図)。光触媒では太陽光パネルを使わないで、直接光触媒に太陽光を照射して水分解を行うが、その光触媒を電極に使うことで効率を上げることを狙った。具体的にはアノードにはコバルトを含むOEC(酸素発生錯体)を、またカソードにはNiMoZn合金を用いて効率3%を達成したので、人工葉と名付けた。研究グループリーダーのNoceera教授はエネルギー関連の起業に熱心で、人工葉というネーミングは将来の起業を狙ったものである。
Image: MIT
人工葉はシリコンデバイスでありもちろん葉緑素を持つわけではないから「人工葉」は誇張であるが、光合成の半分の機能である水分解を行うことであえて半導体デバイスらしくない自然植物のイメージをもたせかったに違いない。
光触媒
一方の光触媒は日本が得意とする分野で、TaONと白金電極をカソードとアノードに用いた最新型で効率3%が達成されている。偶然、人工葉と同じ効率であるが光触媒の強みは太陽光パネルを使わないので低コスト化が可能である点だ。
産業用の水分解システムの市販化には変換効率10%が要求されるので、人工葉も光触媒も手が届かない。経産省は将来の水素社会に必要な水素生産を小規模なものをCO2排出量を増やさない太陽光で行うとしているが、それには人工葉でも光触媒も効率の改良が不可欠となる。
太陽光水分解
一方、太陽光パネルで発電して水分解を行う太陽光水分解は①高効率太陽光パネルの使用、①電極間に導電ポリマーを挟電極むことで電極間距離を小さくし、③電気回路のマッチングをとる、ことで東大グループが最高効率24.4%を達成した。したがって現時点でも小規模の水素生産装置には十分な効率が得られている。
政府が力をいれる水素社会では水素を燃料にして燃料電池がゼロエミッションの発電を行う。大規模の水素生産は電気エネルギーに頼らざるを得ないが、人工葉と低コストの光触媒で天然ガスの代わりに水素を用いた燃料電池(エネファーム)で住宅やオフイスのオフグリッド化が現実味を帯びてきた。人工葉の弱点はシリコン太陽光パネルを使うのでコストが高いことであるが、人工光合成の第一歩であることは間違いない。重要な点は人類が生態系に学ぼうとしていることで、環境に優しいエネルギー源に目が向いたことにある。Nocera教授はエネルギー関連の企業には長期間の開発資金投入の必要性を訴えている。