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ヒトの遺伝子をあたかも化学物質のように、合成しようとする研究を目指す研究者たちがいる。究極の生命科学ともいえるこの研究には技術的にも難関だが倫理的な命題「人間がクローンを作製してよいのか」が立ちはだかる。
計画はまだ検討中の段階であるが、DNA配列を変更できれば不利な体質や体の欠点を克服できることになる。人間が人為的な進化を遂げるともいえる行為がハーバードメデイカルスクールで秘密裏に限られた約150名の研究者たちによって検討されている。出席者たちはメデイアとの接触を禁じられている。
このような試みの科学的に貢献が大きいと主張する会合の企画者たちはヒトゲノム計画のフォローアップという位置付けととらえている。しかし新しい計画は遺伝子配列の読み取りのみならず、書き込みすなわち30億個の塩基配列を化学的に合成する次のステップを試みようとしている。原理的には塩基配列の構成要素は簡単な分子であり、配列を制御して「組み立てる」だけのことではある。
しかしそのような手法が仮に可能になったとしても、特定人物のクローンを作り出すことが人間に許されると考える人は少ないかもしれない。しかし例えばアインシュタインと同じ頭脳をもちたいと願う人は少ないかもしれないが、不幸にして失った恋人や愛妻が蘇るとしたら、誰しも新技術を願うに違いない。
この秘密会合に招待された遺伝学者の中には倫理的問題から出席を辞退した人もいるという。しかし企画したチャーチ教授は趣旨が誤解されていると主張する。プロジェクトはヒトのクローン化を目指すものではなく、細胞レベルの合成実験でDNA合成機能の向上のアカデミックな性格のものだという。また出席者のメデイア接触を控えてもらったのも会合の中身を論文で公表するためだとしている。
新プロジェクトはHGP2、”Human Genome Project2”と呼ぶフォローアッププログラムとなる予定。目標は10年間でヒトDNAを「細胞レベルで」合成できるようにすることとなっている。しかし会合後に正式名称は”HGP-Write: Testing Large Synthetic Genomes in Cells”となり、書き込み、すなわちDNA合成を目標とすることが明確になった。
NIHは時期尚早としてコメントを控えているが企業から関心が寄せられている。最初は存在しているDNAの配列を意図的に変更する書き換えは薬の合成ですでに行われている。これを発展させれば細胞レベルで全てを書き換えることも可能になるかもしれない。遺伝子全体を合成するよりは書き換え技術を発展させた方が容易なだけに、倫理的な議論を早急に進める必要がある。