光で駆動する世界最小のナノエンジン

03.05.2016

Photo: University of Cambridge

 

ケンブリッジ大学のキャベンデイッシュ研究所の研究チームが光で駆動する世界最小のナノエンジンを開発した。将来活躍するとみられる生態内部を動き回り治療に使われるナノロボット(注1)の駆動システムに応用が期待される (PNAS(20160. DOI: 10.1073/pnas.1524209113)

 

(注1)トランスデューサー。ここでは熱エネルギーを分子歪みエネルギーに変換し、それをファンデアワールス力を打ち消すのに利用する、という二重の意味での「変換素子」を意味する。

 

 

研究チームが試作したのは電荷を持った金ナノ粒子を温度に反応する特殊な高分子(ゲル)で覆うことにより結びつけたナノエンジン。このゲルをレーザーで加熱すると、特定温度(Tc)以上でエネルギーの一部が歪みエネルギーとして蓄えられる。高分子を湿潤化すると水分子と反発して分子が変形し、その際に特定数の金粒子同士は接近してクラスター化する(注2)。

 

温度が下がるとTc以下でポリマーが引き伸ばされ金属粒子間のファンデアワールス力に打ち勝ってクラスターが分かれる。温度をパラメーターとするクラスター化と分離は可逆的で制御することができるため、エンジンのピストンのように推進力とすることができる。

 

(注2)中性のナノ粒子を用いると粒子が凝集すると金属エネルギーで安定化して不可逆的に成長してしまう。電荷を持ったナノ粒子を用いることがポイントとなる。

 

 

ナノエンジンは従来の駆動力(注3)より数100倍大きいことから「蟻」のように力強いという意味でANTと呼ばれる。また水溶液中で駆動力を発揮することからバイオ・ナノロボットへ用いることができると期待されている。

 

(注3)DNAの”ORIGAMI”や分子機械の駆動力は弱い。

 

 

レーザー加熱による分子変形を駆動力とすればナノスケールのエンジンとして用いることができるという。重要な点は重金属(金)粒子間に働くファンデアワールス力を分子の歪みエネルギーに転換することができた点にあ理、それが可逆であることがエンジンに必要な駆動原理となっている。