小型原子力炉が悲観的な理由

11.04.2016

Photo: NYTimes

 

米国の100基を超える原子炉の大半が老朽化し更新がままならない現状だが、1週間でテスラ社のEV33万台もの受注が入ったことからもわかるように、米国の電力需要は排出ガス規制に後押しされ増える一方である。原油安で一時的には火力に頼れても、電力消費で世界第2位の米国ではドイツのように原子力を断ち切ることは難しい。

 

1000MW以上の大型原子炉の建設コストの高騰と建設の遅れ(注1)は世界的な傾向である。ビル・ゲイツが東芝と共同で進める300MW級の小型原子炉は建設コストと工期を短縮できるとして注目を集め、中国がビル・ゲイツに資金提供しているほか、米エネルギー省もNuScale Powerなどの小型原子炉製造企業に支援を行っている。小型化はコストや環境負荷も小さく、分散配置すればリスクも分散させることができるため、ウエスチングハウス(東芝)も同社のAP1000という1000MWの第三世代原子炉をスケールダウンする計画で臨む。

 

(注1EPRと呼ばれる欧州型加圧水炉はアレヴァ社が開発した最新の大型原子炉でフランス電力会社(EDF)がフラマンビルに建設中であるが、工事の遅れが大きく設計不良の手直しと建設コストの高騰で完成が危ぶまれている。EPRは中国と英国でも建設が開始されている。

 

小型原子炉を分散配置してグリッドを形成することは理にかなっているように思いがちだが、これには高温ガス炉と溶融ナトリウム炉という軽水炉の先端技術が必要になる。ここが難しいのだ。NuScale Power社は加圧水型原子炉が運転停止すると外部電源無しに自動的に冷却され炉心溶融を防ぐことで安全性を保証している(下図)。

 

 

Source: NRC

 

NuScale Power社の小型モジュール原子炉は50MW発電機を含みユニット化され地下に設置される。モジュールの冷却には自然対流と伝導によるので外部配管やポンプ、駆動用の電源を必要としない。

 

エネルギー省は2016年にNuScale Power社原子力規制委員会に提出する開発項目を提示しており、2019年半ばまでに設計を完了する予定で、建設予定地をTVAとしている。NuScale社の500MWモジュール原子炉建設コストは30億ドル(日本円で約3600億円)となる。2020年に建設認可(注2)が下りるとみられるがエネルギー省は技術開発にクリアすべき課題が多いとして営業運転は2025年と予想している。

 

(注2)米国には認可を受けても(住民の反対と財政難で)建設が始まっていない原子炉がある。ウエスチングハウス社の代表機種AP1000もその一つである。

 

NuScale Power社の算出した50MW級の小型モジュールの電力コストはキロワットあたり5,100ドル(61.2万円)で天然ガスコンバインド発電の900ドル(10.8万円)に対して割高で採算に合わない。第四世代となる新型原子炉の運転コストは第三世代原子炉の1.5-2倍になる。つまり採算性から言えば小型モジュール原子炉は大型原子炉に及ばない。

 

燃料交換が2年ごとの小型モジュール原子炉の建設期間が短いことがメリットで、NuScale Power社のモジュールは28カ月で運転が可能という。一方、国際原子力連合(World Nuclear Association)は原子力発電への投資インセンテイブが減少し、原子炉建設コスト高騰と建設遅れを警戒する。

 

 

 

小型モジュール原子炉で電力不足の地域を解消するには採算性がネックとなる。採算性を考えれば小型原子炉は財源に不安のない高度成長地域に限られ、低コストの安定電源としての市場は厳しい。新世代の原子炉はエネルギー格差を(是正するのでなく)広げる方向に向いていることが現実である。