Credit: Jeongmin Hong and Jeffrey Bokor
CPUの発熱の問題で2016年にいよいよムーアの法則が破綻することをインテルも認めた。演算素子の熱密度はすでに原子炉心を超えていて、冷却に要するコストがデータセンターの維持コストの大部分を占める。発熱しない電子回路が望まれるが、ようやく物理的に可能な最小エネルギーで動作するチップの開発に見通しがついた。
このチップによって発熱量は100万分の1にもなる究極の省エネ計算機を作ることが可能になる。一般に普及したノートPCに採用されるのには時間がかかりそうだが、発熱の問題を避ける突破口が開かれつつある。
カリフォルニア大学バークレー分校の研究チームは世界で初めて熱力学上最低エネルギーで動作するナノ磁気チップを開発し、その動作を磁気顕微鏡で観測することに成功した。従来のトランジスタのような電流のオンオフでなく磁気チップで演算する原理あるため発熱がない。トランジスタではオン状態にするときに電流が流れエネルギーを消費する。オン状態はオフ状態より高いエネルギーにあるためオンするときにエネルギーが必要になる。磁気演算チップでは1状態(オン)と0状態(オフ)間で磁場の向きが反対になるだけでエネルギー差がない。つまりオフ状態からオン状態へ切り替わる際に必要なエネルギーは磁化方向を逆転するエネルギーのみで、オンかオフかによらない。
磁気演算・記憶素子の究極の形は下に模式図を示す磁石の最小単位であるスピンをメモリーに用いるスピントロニクスである。世界的に強磁性半導体デバイスやトンネル磁気抵抗を利用したものなど磁気演算素子の開発が進められている。MRAMと呼ばれる磁気抵抗メモリは市販されている。今回の結果は演算に必要なエネルギーを限界まで下げた世界最高の省エネデバイスを作製、測定した点が注目される。
Source: UTNews
エネルギーが磁化の向きによらないので、向きを切り替える必要なエネルギーは100万分の1に出来る。ムーアの法則が破綻した現在、チップに求められるのは節エネルギーである。消費電力が少なくなれば携帯端末のバッテリーも長持ちするほか、データセンターの冷却も大幅に削減して維持コストを下げられる。
熱力学第二法則から導かれる1ビット演算に必要な最小のエントロピー(演算のエネルギー)はランダウアー限界(Landauer Limit)と呼ばれる。室温でのランダウアー限界は3 ゼプトジュ―ル(zeptojoule)(注1)で励起原子が発光で規定状態に戻るエネルギーの1/100程度となる。研究チームは磁化方向を反転させた時のエネルギーを精密に測り、15meV(3ゼプトジュール)であることを見出した。
(注1)10の21乗分の1ジュール
このエネルギーはランダウアー限界であることが確認されたため世界初の最低エネルギーを持つ磁気演算チップが誕生した。研究チームによればこの原理で演算チップを製作して計算機に組み込むにはまだ開発期間が必要だが、2月にムーアの法則の破綻が報じられているが、発熱のない計算も可能になろうとしている。
165年にムーアが提唱した「2年ごとにトランジスタ巣が2倍になるムーアの法則」に従って2012年のデバイススケールは22nmとなったが、2015年にインテルがこの法則が破綻したことを認めた。インテルはまた7nmスケールの磁気演算チップを用いる磁気計算機の時代が到来するとしている。