米国でようやく新規原子炉が稼働

19.06.2016

Photo: Nashville Public Radio

 

米国にある99基の原子炉の60%は建設後、設計寿命である30年をとうに超えた老朽機である。米国の原子炉の建設は1975年頃にラッシュを迎え、ベビーブーマーのような年齢ヒストグラフのピークを作っている。それから30年が経過して新規建設で更新が望まれるところだが、環境保護と経済的理由(注1)で新規建設はさっぱり進まない。

 

(注1)設計基準が厳しくなり安全性の確保に対する何重もの対策のため、建設費が高騰した。911以降は大型ジェット機に突入に対しての建物の強度の要求でコンクリート補強が建設コストに反映された。さらに停電時の冷却が無電源で行えることなど、これまでにない要求が相次いで設計が複雑化した。

 

 

このほどテネシー州スプリングシテイにあるTVAワッツ・バー原子炉がこの20年間で初めてとなる新規建設原子炉として運転を開始した。概ね住民の歓迎ムードの中の運転開始には幾つかの環境変化がある。最大の追い風となったのはCO2排出が少ない発電として原子力が見直されたこと(注2)で、これによって反対運動の中心となってきた環境保護団体も態度を軟化させ擁護に回った。

 

(注2)原発がCO2を排出しないというのは間違いで、燃料であるウランの採掘と精製、使用済み核燃料の再処理工程も含めれば、必ずしもCO2排出ゼロというわけではない。むしろこれらによる環境汚染と核廃棄物の最終処理は悪化するばかりで、環境保護団体がこうした事実も考慮して環境保護の機能を発揮していれば反対運動はむしろ強埋まっていたであろう。

 

 

しかし原子炉をCO2排出量の立場で学者らも原子炉権建設を容認したことで、世論が原発への反撥を弱めることとなった。TVAワッツ・バー原子炉は大恐慌後の公共事業として歴史あるTVAの管轄で、近くにはオークリッジ国立研究所や関連企業の施設も集中し、原子力産業が盛んである立地の良さもある。

 

しかし原子炉ビジネスは天然ガス価格と原油の大幅な値下がりにより、経済性で窮地に立たされていることに変わりはない。実際、老朽原子炉の廃炉を決定しても新規原子炉の建設ができない州も多い。下の図に示すように新規建設は極めて少ない。寿命を50年に延長しても10年後の2015年には深刻な電力不足が予想される。

 

 

Image: inside climate news

 

全米で23基の原子炉を運転するエクセロン社は採算性が悪化したことによりイリノイ州にある2基の廃炉を決めた。しかし100基に近い老朽化原子炉を新規建設で置き換えられなければ、1基あたり平均で1,000MW発電能力があると仮定すると、60GWの電力不足を生じることになる。これを寿命を終える20年間で風力と太陽光エネルギーで置き換えることはできない。

 

今回稼働したワッツ・バーの2基の原子炉は1970年代に認可を受けてから1985年に建設が中断した。オバマ政権になって初めて認可が再開されるまで反原発の流れの中で、新規原子炉建設が進まなかったのである。ワッツ・バーの2基の原子炉設計は他の99基の原子炉と同じで最新型ではないが、それでも建設コストは47億ドル(日本円で約5,000億円)である。

 

そのため原子力は温室効果ガス削減の即効手段とはなりえない。ワッッツ・バー原子炉の稼働はTVAという政府主導の事業という特殊な環境によるところが大きく、上図に示す原子炉建設計画を同様に進められる見込みはない。

 

 

もっとも勢力の強い環境保護団体シエラ・クラブはワッツ・バー2号機が米国が建設する最後の原子炉となるとしている。この2基の稼働でTVAの供給する電力の34%が原子力となる。