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2017年1月から欧州初の「ベーシックインカム制度」(統一最低所得又は基礎所得保障)を実験的に実施していたフィンランドは、今年の12月31日をもって終了することを決めた。予定されていた2019年からの、失業者だけでなく雇用者を含む規模を拡大した実験導入は見送られることになった。
ベーシックインカム制度の社会実験に参加したのは、無作為に選ばれた2,000人の年齢25~58歳の失業しているフィンランド国民。毎月支給される失業手当に取って代わり、560ユーロ(約9万円)が支給された。実験中に雇用されても同じ金額が支給される条件であった。
現社会福祉システムでは、支給される失業手当や社会保障は高く設定されている。雇用により受け取る社会保障が減額される(収入の上限制度があり、受け取る収入額が高くなるにつれて、受け取る社会保障額が減らされる)ため、雇用を希望しない人が多いとされる。
そこで検討されたのが、収入とは関係なく決まった最低所得の支給で、貧困層の減少や雇用が増えることを期待していた。さらに、社会福祉手当の支給システムを単純化することで、財政コストの削減策や将来のロボット化で起きる雇用問題の対応策として、世界の注目が集まっていた。
しかし、1年の試験的導入を経て、昨年の12月にフィンランド議会では、無条件に一定額を毎月支給するベーシックインカム制度とは全く違う、「活性化モデル」の法案を可決した。この法律では、失業者は失業して3カ月以内に週最低18時間の雇用又は職業訓練プログラムに参加することを義務づけ、仕事に就かない場合には失業手当や社会保障が逆に減額されることになる。
試験的導入の結果は2年間の期間を経て公表されることになっているが、政府や議会の方針転換したことは、ベーシックインカム制度で雇用を増やすことができない、貧困率を下げることができない、ベーシックインカム制度を維持するための財政負担が大きく、維持が困難であることなどのネガテイブな交換を示唆している。実際にOECDの調査では、フィンランドでベーシックインカム制度を全国民を対象にした場合、制度維持のために所得税を30%引き上げる必要があると指摘している。
フィンランドでは今後ベーシックインカム制度とは違う、「ネガティブ・インカム税」が検討される。この制度では、一定の所得額を下回った場合、所得税の支払いは免除され、その差額分が社会保障手当として支給される。
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