米国ミサイルを無力化するシリアの対空防衛システム

12.04.2018

Photo: superhaber.tv

 

 トランプ大統領がシリアにミサイルを撃ち込むと警告したが、実際にはロシアの配備した移動式のS-400ミサイルシステムで、シリアの防空能力は米国のミサイルを撃墜できるとして米国のミサイル攻撃を無力化できるとしている。

 

 S-400は2015年からシリアに配備されている射程距離248マイル(400km)の移動式ミサイルで、マッハ10以上の速度で、同時に80目標を攻撃できる能力を有している。またロシアはイランとトルコにもS-400システムを売り込む計画で、中東における米国のミサイル攻撃能力が低下することになる。

 

 ロシアは基本的なミサイル戦略が米国と異なり、サイロ固定式のミサイルは採用せず大型トレーラーでミサイル本体と誘導・ジャミングの電子機器を移動する稼働型を採用した。ロシアの協力で完成した北朝鮮の一連のミサイルが移動式であるのもこのためである。

 

 ロシアは否定しているシリアで化学兵器使用を巡って、米国はロシアを強く批判してミサイル使用を警告している。ロシアはこれに対して在レバノン大使がS-400システムでシリア(アサド政権)の防空体制は完璧で、米国のミサイルは全て撃墜できるとしている。

 

 米国と英国、フランスはアサド政権が化学兵器で45人の死者を出したとして、報復攻撃を検討しており、中東の緊張は急速に高まった。欧州の航空管制当局はシリア周辺を飛行する民間航空機には対空ミサイルを警戒するよう呼びかけている。

 

 米国の公式発表ではシリアへのミサイル攻撃は選択肢の一つであるとしているが、トランプ大統領のTwitterは攻撃を警告知っていることから、72時間以内のミサイル攻撃の可能性は否定できない。なおここで米国のミサイル攻撃というのは攻撃機からの空対地ミサイルと艦船から発射される巡航ミサイルのことで、S-400で迎撃が可能な範囲にある。

 

 S-400はもともと首都防衛用に配備された400km先の空対地ミサイル迎撃用である。弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約にかからないカテゴリだが、早期警戒能力に優れていることで防空システムとして高い評価を受けた。サウジアラビアへの輸出が決まっている他、イランやトルコも興味を示している。中国が国境沿いのS-400同様に高性能レーダーをもつTHAAD配備を嫌う理由は、早期警戒で防空システムが裸にされるためである。シリアの早期警戒網がイスラエル、トルコ、ヨルダンが含まれることの意義は大きい。

 

 なおS-400システムは前身となるS-300の改良型となる。そのため特徴である4台に分割されたシステム構成を受け継ぐ。また現在、開発が進められているS-500システムもS-400の改良型であるが、置き換えるのではなく相補的に使うことで対空防衛力を増強する。射程および同時可能な標的数が改良されたS-500は巡航ミサイル以外に大陸間弾道弾が最終段階で大気圏に突入する前に撃墜することができる。射程はこのため1,700km、高度は2,000kmと大幅に改良されている。S-500はそのため大都市など人口密集地域を核攻撃から防御するために使われ、精密誘導爆弾や巡航ミサイルをS-400(S-300)の相補的運用で防空能力を高める。

 

Credit: BBC

 

Updated 14.04.2018

 S-400ミサイルシステムはミサイルを輸送し直立させて4発を発射するランチャーと誘導ミサイルの他に、強力な早期警戒レーダーと統合管制車の4台が組み合わされる(上図)。複数のランチャーが攻撃ユニットを形成し、ほぼ同時に複数の地対空迎撃が可能となる。通常はランチャー8基と32発のミサイルで大隊を構成する。

 

 ロシアがシリアにS-400を配備したのは2015年11月にトルコがロシア空軍の航空機を撃墜、パラシュート降下したパイロットを殺害した事件に遡る。プーチン大統領はこれに即座に対応しラタキア基地にS-400を配備した。 トルコとの国境沿いで対空ミサイルの脅威から航空機を守るためとしていたが、実際にはシリア国内の大部分が射程に含まれる(下図)。

 

 シリア国営メディアは14日、米英仏などによる軍事行動によって、首都ダマスカス近郊の軍用空港などが攻撃を受けたと報じた(AFP)。シリア側の防空システムが作動し、ミサイル13発を撃ち落としたとしている。

 

Credit: independent.co.uk

 

 

Updated 15.04.2018

 シリア攻撃の内容に関する米国とロシアの発表は大きく食い違う

 

 米国は今回初めて巡航ミサイルの他にB1Bランサー爆撃機からステルス巡行ミサイルJASSMミサイルを発射した。JASSMは射程距離230マイル(370km)、450kg弾頭を赤外線センサーを使って標的に誘導する。B1はJASSM4発を搭載する。

 

 米国の発表で前回のほぼ倍となる105発のトマホーク巡行ミサイルが発射され、精密攻撃が成功したとされているが、ロシアの発表ではそのうち71発が迎撃ミサイルで撃墜されたとしている。ロシアが今回、使用したのはS-400ではなくより旧式のS-125、S-200、Buk、Kvadratシステムであった。

 

 70%の撃墜の中にステルス巡行ミサイルが含まれているかは興味深いが、少なくともS-400を使わずに撃墜率が70%であるならば、S-400を加えた防空システムの威力は中東の軍事バランスへの影響は大きい。

 

 今回の攻撃に対してロシアは、プーチン大統領がEUの反対で、2013年に見送ったS-300防空システムをアサド政権に供給することになるとみられている。

 

 

Source: ISW, Apr. 12, 2018