カショギ氏殺害事件で揺らぐサウジアラビア王位継承

23.10.2018

Photo: weeklystandard

 

 サウジアラビア政府は20日、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ総領事館内で殺害されたことを認めた。殺害疑惑を否定してきたサウジアラビア政府だが、殺害から20日後に一変して殺害を認めたうえで、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の事件関与を否定したが、現サウジアラビア体制交代の圧力は避けられない状況に追い込まれている。

 

次期国王を巡る混乱

 世界的にサウジ批判が拡大しているなか、イランのFarsNewsは次期国王を選出、任命する「忠誠委員会(Allegiance Council)」がサルマン皇太子の王位継承の見直しを行っていると報じている。さらに、米ポンペオ国務長官のサウジアラビア訪問はカショギ氏殺害を巡る迅速な調査を完了する必要を要求しただけでなく、王位継承を巡り米国はその意思決定プロセスに直接参加したいとのことを求めたとされる。

 

 仏Le Figaro紙も19日、サウジの忠誠委員会は数日間内密に王位継承の再検討を行っていることを報じている。忠誠委員会は初代サウジアラビア国王のアブドゥルアズィーズ・イブン・サウード国王の息子や孫34人で構成されている。少なくとも7つの王族を含め、王位継承を円満に決める、継承順の変更を議論する場とされている。

 

振り出しに戻るサルマン皇太子の王位継承

 その忠誠委員会ではサルマン皇太子の代わりに弟のハリド・ビン・サルマン(28歳)に王位継承権が与えられる案の採択が有力視されている。ハリド王子は2017年に駐米大使に任命される前は、駐米大使館で顧問、高等教育をハーバード大学やジョージタウン大学で受けている。米国との関係強化を重視してきたハリド王子は海外でもサウジアラビア国内でも好感が高く、なりよりも米国にとっても次期皇太子に任命されることに異議がないとされる人物である。

 

カショギ氏殺害事件で動き出した潮流

 カショギ氏殺害事件でサウジ体制批判は政治面だけでなく、経済面でも大きな影響を及ぼしている。殺害事件を問題視して、多くの企業はサルマン皇太子主催の「未来投資イニシアティブ」への参加をキャンセルしている。「砂漠のダボス会議」とも呼ばれているこの会議は世界各国からのビジネスリーダーや企業代表3,800名が参加、サウジアラビアをハイテク国家に変える大型投資プロジェットである。

 

 既に海外の主要メディア、J.P. モルガンやゴードマンサックスなど米大手銀行、オーストラリア政府、エアバス、ウバー、シーメンスなどの大手企業が参加のボイコットを表明している。カショギ氏殺害事件をきっかけとして、サルマン皇太子によるサウジアラビア実質支配体制の交代はもはや避けられない状況にまで発展し、早期交代がなければ、国際信用を失ったサウジアラビアは中東における影響力を失う方向に向かう。

 

 サルマン皇太子が主導しているビジョン2030の財政基盤が危ぶまれる中で、失脚すれば間違いなくサウジアラビアが石油依存から脱却して、近代化を進める構想が文字通り、砂漠の楼閣のように消え去り、中東は困難な時代に突入することになる。カショギ氏殺害事件の影響が大きかったというよりは微妙な力関係の均衡が一気に崩れたと解釈すべきだろう。各国の利権が渦巻くサウジアラビアでは政治均衡も流動的で、未来図を読み取ることは難しいが、下にまとめた一連の記事順を追ってお読みいただければ、全体像がある程度はつかめると思う。

 

 

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