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その国の近代化と経済成長に果たし、現在も経済牽引に欠かせない自動車産業に暗い影が迫りつつある。EVや自動運転など既存技術のシフトを余儀なくされ、デイーゼルゲートをきっかけにした自動車産業の不正への批判が強まっているが、それだけでもない。若者を中心に車購入のモチベーションとなる「車を所有する文化」に投資する意欲が薄れたことが将来性が危ぶまれている。このことを実感しているのは自動車メーカー自身だろう。
ドイツでは3大メーカーを中心として、自動車産業は国内産業と貿易輸出を支える基盤として車社会の代名詞的な存在であった。毎日の生活で車は重要な移動手段であり、毎年1万km以上を走破して来た筆者のように日々の生活に日不可欠という郊外の居住者もいるのだが、大都市では通勤に車を使うのみの市民にとって、仕事をしない日は不要なものとなる。このためアプリで呼び出すUber方式の新しいカーシェアサービスが生まれた。
若者の車離れで加速するカーシェアサービス
大都市に住むドイツ人にとって大部分の時間が空いている車を所有するよりも、人々が車を共有するカーシェアに切り替える傾向が強まった。ドイツの25歳以下の運転免許を取得している人の数は、過去10年間で28%減少したが、これは「若者の車離れ」現象として知られる、都市化が進んだ先進国に共通の世界的傾向であるが、その背景には都市部の若者の雇用賃金の低下がある。
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自動車は1世紀以上前にドイツで発明されて以来、自動車メーカーは個人所有という概念を押し付けて利潤を得た。結果的にこれが経済成長の原動力となったことは事実だが、カーシェアリング、EVトラックの集団走行、自動運転の時代になり、自動車メーカーは生き残るために自らを改革する必要に迫られることになった。
メルセデス・ベンツ社は2016年に設立されたカーシェア企業(クレバーシャトル社)の株式を買収した。クレバーシャトル社はUberのような呼び出しスマホアプリを使用して、同じ近辺の行き先を共有する通勤者とグルーピングしてカーシェアサービスを提供する。この新型カーシェアサービスはドイツの5つの都市で人気を呼び、1月から65万人に顧客が倍増した。
モビリテイサービスのジレンマ
明らかにこの種のカーシェアサービスは自動車販売と利益相反であり、自動車メーカーの既得権が失われる。米国では2030年までに、自動車の販売台数が約12%減の1,151万台になると予測している。自動車メーカーは、景気後退のような一時的な要因ではなく、構造的な低下に対処しなければならなくなったのである。
そのため自動車メーカーは生き残りをかけて新しい概念のサービスとの協業を考えざるを得なくなった。例えばアルファベット社が計画している自律運転型のウェイモ・タクシー・サービスに2万台のEVクロスオーバーを提供するタタ・モーターズなどがある。
メーカーの直面する最大の問題は、車の売り上げをモビリティサービスの収益で置き換えられないということである。共有すれば必要な車の台数が減らさざるを得ないからだ。このためダイムラー、BMW AG、フォルクスワーゲンAGのようなドイツの主要メーカーが、基本的な問題をつきつけられた。
BMWもカーシェアリングサービス、ドライブナウを2011年に開始した。これは、13のヨーロッパの都市で6,000台以上のBMWとローバーミニを貸し出し、顧客に1分ごとに料金を請求する。しかし 7年後もまだ損失があり、昨年は同社の売上高のわずか0.07%を占めるにすぎなかった。
製造コスト以外に、車のメンテナンス、税金、ソフトウェアの管理と更新など、多くの継続的な費用が発生するから従来型のカーシェアサービスでは利益が出ないのである。
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それでもBMWの見積もりでは、10年後には1台の車共有車が少なくとも3つの個人所有車を置き換えられ、自律車を含むモビリティサービスが道路上の3分の1を占めるとしている。またニューヨークに拠点を置く自動車コンサルタントによると、2040年までに移動量は2,000億ユーロ(2.27億ドル)に達すると予測されている。
さらにBMWは自社のカーシェアサービスを3月にライバル企業のダイムラー社のカーシェアサービスと合併した。目標はタクシー呼び出し、駐車スポットの検索、電気自動車の充電ステーションの検索など、すべてをこなすワンストップショップを構築することである。
ガソリン車やEVレンタカーに、分単位で料金支払い、電子マネーで決済できるベルリンでは、個人の選択肢も多い。 1時間1ユーロでレンタルバイクを利用することができる他、30分3ユーロで、EVスクーターも利用できる。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによると、世界の自動車シェアは91%増加した。 Uber、Lyft、Grabのようなサービスを提供する自動車メーカーは、第2四半期に約10億人の消費者に支えられるという。
車を所有する文化に終焉の兆し
車を所有する必要のない人が消費者で移動手段に選択肢があることが魅力となっている。 例えばタクシーの半分の料金で駐車場を借りる必要がなく、車の整備費用や税金、保険の費用が必要なくなったらどうだろう。都市部では新しいカーシェアサービスの未来は期待できる。車を所有することの無駄に人々が気ずけば次第に近郊へと拡大し、初期投資と維持コストに難のあるスマート公共交通網に置き換わる可能性もあるだろう。「車を所有する文化」が終焉を迎えるかもしれないのである。
米国の多くの都市で今、EVキックスクーターのシェアサービスが人気だという。また中国では黄色い自転車シェアサービスが人気である。両方に共通するのはスマホアプリで、解錠しまた簡単にスマホ決済ができる便利さと経済性である。政府とメーカーとの癒着疑惑が浮上したドイツで、車を所有する文化の終焉を加速するカーシェアサービスをそのメーカーが手がけざるを得ないというのは皮肉な話だが、世界的な潮流が起きている。