トルコ通貨危機の背景 Part 1

13.08.2018

Photo: marketwatch

 

 トルコ通貨のリラは12日大暴落し、史上最安値を更新した。経済政策の失敗、大幅な金融刺激策、インフレの上昇、貿易赤字の拡大などで2018年1月からトルコリラは33%と大きく下落していた。ここに来て、米国との関係の悪化で、トルコリラはさらに下落、トルコは金融危機を避けられない状況にある。

 

トルコリラ対ドルレートは2016年から下落トレンドにあった。

 

               2016年       2.95

               2017年       3.54

               2018年2月       3.81

               2018年5月       4.28

                            8月12日    7.20

 

 先週から始まったトルコリラの大下落は米国との関係悪化でさらに続く可能性が高い。トルコのエンドアン大統領はアメリカとの対立姿勢を変えない限り、金融危機、デフォルトに追い込まれる状況は避けられない。

 

ブランソン牧師拘束問題

 今回のトルコリラの急落のきっかけとなっているのが、ブランソン牧師拘束問題である。2016年にトルコで起きたクーデーター未遂事件で反政府勢力を支援した疑いで、拘束されているアメリカ人のブランソン牧師の釈放を巡り両政府は交渉を行っていた。一回目はクーデーター未遂事件の首謀者と言われているアメリカに亡命したギャレン師との人質交換の交渉であった。引渡しの交渉は決別、その後ブランソン牧師の釈放を否定し続けるトルコに対して、トランプ大統領は経済制裁を発動した。

 

 2回目の交渉は、イスラエルでテロの疑いで拘束されているトルコ人銀行幹部の釈放の人質交換の交渉である。この交渉も成立せず、一向に進まないブランソン牧師の解放に対して、米国はトルコ製鉄鋼とアルミニウムへの関税を倍に引き上げる(鉄鋼に50%、アルミニウムには20%関税)ことを含む追加の経済制裁を加えたことで、9日からトルコリラが急落した。トルコリラ対ドルレートは4.80から6.80まで下落、12日には一時史上最安値の7.20まで下げた。

 

 鉄鋼はトルコの主要な輸出品の一つで、アメリカへの輸出額は10億ドルに上る。アメリカにとって、トルコからの輸入は鉄鋼4.2%、アルミニウム1%に過ぎないため影響は少ないが、関税の引き上げはトルコの貿易赤字をさらに悪化させる要因となる。

 

ロシア地対空ミサイルS-400システムの導入

 トルコはNATO加盟国でありながら、昨年の11月にロシアから最新鋭のS-400地対空ミサイシステムの導入を決定した。今年6月にはアメリカからF35スレルス戦闘機を購入した。F35の売買を巡り、戦闘機の情報がトルコからロシアに渡ることを恐れた議会では戦闘機の売買を阻止する動きがあったが、取引は成立した。

 

 S-400防衛システムの導入前に、今回の追加制裁とトルコリラの下落を引き起こしたのは、導入を断念する米国の圧力でもある。S-400ミサイルシステムは移動式で高性能対空レーダーを有するS-300システムの改良型である。イスラエルのF-35がS-300システムに感知されなかったとの報道もあるが、S-400は大幅に探知能力を高めており、ステルス性能でF-22に劣るF-35を探知できる可能性が高い。

 

 またF-35はF-22よりも先進的な火器制御、レーダー機器を搭載しているため、米国としてはロシア側への情報漏洩を阻止したい。一方ロシア側も第5世代ステルス戦闘機Su-57の実戦配備が主に電子機器の開発遅れによって大幅に遅れている。現時点では最も進んでいるF-35の電子機器の情報が欲しい。ロシア、米国双方にとって、トルコのF35導入は国防に影響が大きい。なおロシアがサイロ方式の地対空ミサイルシステムを置き換えるとともにS-400ミサイルの高性能化を狙ったS-500プロメテウス・ミサイルシステムを開発中であり、2020年度に配備されれば現在の第5世代ステルス戦闘機では対抗できないとされる。S-500システムは現在、試射が行われていることから2020年の実戦配備は前倒しとなる可能性が出てきた。

 

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