ヒットラーの生存説に終止符か

20.05.2018

Photo: panmacmillan

 

1945年にベルリンで死亡したとされるアドルフ・ヒットラーは死体が見つかっていないことから、南アメリカにU-ボートで逃げ延びて、余生を送ったとする説を信じる人が少なくない。そんな人にとっては、ヒットラーが1945年にベルリンで死亡した証拠があらわれたといっても信じないかもしれない。

 

モスクワで保管されていた歯の断片の調査を許可されたフランスの研究チームが、1945年、ヒットラーは青酸カリと銃弾によってベルリンで死亡したことを明らかにした。調査を行ったフィリップ・チャリエ教授は、歯は本物で、ヒトラーが1945年に死亡したことを証明したと結論した。これまでヒトラーはアルゼンチンに逃げたとされる説以外に、南極の秘密基地や月に逃げたとする極端なものまで多くの仮説がある。

 

この研究結果(Charlier et al., European Journal of Internal Medicine 2018 )によるとヒトラーの歯と義歯の分析で、白い歯石で肉を食べた痕跡がない。ヒットラーは菜食主義者だったことと矛盾しない。20173月と7月には、ロシアの秘密機関FSB(連邦保安庁)とロシアの公式文書が、1946年以来初めて保管してあったヒットラーの骨を調べる調査研究を開始した。

 

フランスチームは、ヒットラーのものとされる頭蓋骨の一部を調べることができ、銃弾のつらぬいた跡がみつかった。しかし研究チームは頭蓋骨から他のサンプルを採取することを許されなかった。そのため頭蓋骨の非破壊分析を行いその形状が死亡する1年前に撮影されたヒトラーの頭蓋骨のX線写真(注1)に完全に匹敵することがわかった。

 

(注1)フランスにある欧州放射光施設ESRFを使ったXCTによる美術品の鑑定で、フランスの研究レベルは世界先端にある。ESRFはこれまで数多くのルーブル美術館秘蔵の名画に隠された謎をX線分析で解明してきた実績がある。

 

研究チームによればこの研究がヒトラーが1945430日に死亡したという一般的に受け入れられている見解を確認することになれば、エヴァ・ブラウンとベルリンの地下室で死亡した原因を突き止められるとしている。

 

死亡原因については青酸化合物を使ったか、それとも拳銃自殺だったかは不明であった。しかし歯の検査では粉末の痕跡が見つからず、口にリボルバーをねじ込んで銃弾を発射した可能性はない。また偽歯に見られる青みがかった沈着物は、青酸化合物と義歯の金属との間の化学反応の結果による可能性がある。

 

しかし青酸化合物と銃弾の両方を使用する自殺も例がなく、そもそも本人の頭蓋骨と歯がなぜモスクワに保管されていたかも謎である。確実にこれらがヒットラーの遺体の一部であることが前提となる。残念ながら秘密機関の情報開示がなければそれを確定することはできない。欧州のメデイアが大々的に報じ始めたのは、EU求心力低下の中で、諸説渦巻く独裁者の末路に幕を引きたい願いが込められているのかもしれない。