ロシア元2重スパイ暗殺未遂事件の真相  Part 1

03.04.2018

Photo: lugansk

 

 VXガスの5~8倍の毒性をもつとされる旧ソ連軍が開発した神経剤「ノビチョク(Novichok)」でロシア元2重スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア・スクリパリさんが襲われてから1カ月となる。セルゲイ・スクリパリ氏の状態は重体だが安定、ユリアさんは重体の状態を脱して急速な回復を遂げていると報道されている。

 

 スクリパリ氏と娘の暗殺未遂事件に関しては多くの謎がある。英国政府は当初からロシア政府が事件に関わっていると断定し、英国で多くの市民の命を危険にさらしたとして強く非難した。さらに対抗措置として英国を含む世界27カ国が露外交官を追放する報復措置をとっている。

 

政治利用されるスクリパリ氏の暗殺未遂事件

 ドイツ連邦議会のショイブレ議長は3月4日に、英国で起きたロシア元二重スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘の毒殺による暗殺未遂事件を機に、英国はEU離脱を再検討することを望む考えを示した。3月29日をもって英国のEU離脱が成立し、約400億ポンドに及ぶEU離脱清算金に暫定的に合意、漁業権や貿易協定の交渉を進めながらの移行期間に入っている。

 

 ショイブレ議長はドイツだけでなく、EUでも多大な影響力をもつ政治家として知られているため、今回の発言が注目される。国民投票でブレグジットが決まっているとはいえ、「EUは機能している」とし、ロシアの脅威に対抗するには(英国が再加入した)EU諸国が結束することが重要だと述べた。

 

 この暗殺未遂事件を受けてEUの加盟19カ国を含む世界27カ国が露外交官を国外追放する措置をとっており、事件は英国のEU離脱を覆す目的に利用されている思惑が見え隠れしている。

 

スクリパリ氏とMI6の関係

 ロシア軍参謀本部情報局の大佐であったスクリパリ氏は、1995年に英MI6にスパイとしてルクルートされ、2004年に二重スパイとして逮捕されるまでロシアの機密情報をMI6に提供していた。情報は主にロシア情報局の諜報員に関するものであった。

 

 スクリパ氏は2006年に国家反逆罪起訴で13年の実刑判決を受けた。しかし、2012年に米国とロシアとのスパイ交換で釈放され、米国に渡るがその後事件が起きた英南西部ソールズベリーに移住する。

 

 ではなぜソールズベリーを住居にしたのか?それは、スクリパリ氏をMI6にリクルートした当時在エストニア英国大使館付一等書記官兼MI6諜報員のパブロ・ミラー氏が居住している場所でもあったからである。

 

ヒラリー・クリントン氏との接点

 スクリパリ氏とヒラリー・クリントン氏との接点は、トランプ・ドシエの作成に関わった元英MI6諜報員のクリストファー・スティール氏とスクリパリ氏との関係を介してである。クリントン選挙対策本部と民主党全国委員会はオポジション・リサーチ(対立相手に関するネガティブな情報の収集と調査)を民間請負会社に依頼し、後にロシアが2016年大統領選でトランプ陣営と結託して、トランプ氏を当選させたとする「ロシアゲート」の根源となったのがトランプ・ドシエである。

 

 クリストファー・スティール氏はスクリパリ氏がスパイ活動をしていた1995~2004年の間、スクリパリ氏から直接機密情報を受け取っていた人物である。引退後、スティール氏はコンサルタント会社Orbisを設立、そこでコンサルタントとして雇われていたのがミラー氏とスクリパリ氏である。

 

 

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