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平昌オリンピック開催期間中は韓国と北朝鮮の緊張関係が緩んだ印象であったが米国と韓国は27日に、3月9日開催予定のパラリンピックの後、共同軍事訓練を予定通り進めることを確認した。閉会式では米朝の歩み寄りが幻想にすぎないことが露呈した。唐突な強行路線の変更と米韓演習に強く反撥する北朝鮮の理由を考察する。
米韓演習と北朝鮮の反撥
米国と韓国は2月下旬から3月上旬にかけて予定されていたキー・リゾルブとフォール・イーグル軍事演習を、平昌オリンピック大会以降に延期していた。オリンピック・パラリンピックが終わると、キーリゾルブ(注1)、フォール・イーグル(注2)の演習が始まると朝鮮半島の緊張が再び高まることは必至である。
(注1)RSOI(Reception, Staging, Onward movement, and Integration)を目的とした指揮系統の統合に主眼を置いた訓練
(注2)1997年から毎年行われてきた米韓合同軍事演習で、後方支援から前線での共同作戦を含む世界最大規模の訓練。2001年からキーレゾルブ(RSOI)と統合して行われている。
ソン・ヨンモム国防相演習開始と日程は、3月18日のパラリンピックの閉会から4月初めにかけて発表されると述べた。AFPによれば米軍の広報担当者が「延期されていたキーリゾルブとフォール・イーグルの詳細は、パラリンピックの後に発表されるとしている。
先週、韓国に駐留する28,500人の米軍を指揮するヴィンセント・K・ブルックス将軍は、米下院軍事委員会で合同演習は「北朝鮮の侵略を抑止するために」不可欠であると述べている。北朝鮮は交渉に応じるかのようなジェスチャを見せたことや今回の軍事演習に強く反撥していることは、米軍の新型EMP兵器CHAMPが、局所的に指揮系統を麻痺させICBMを含む報復が無力化する可能性が出てきたことと無関係ではない。
マイクロ波兵器(HPM)
米空軍の指向性EMP兵器CHAMP(Counter-electronics High-powered Microwave Advanced Missile Project)は、HPM(High Power Microwave)兵器である。CHAMPは高出力マイクロ波発信機を搭載した巡航ミサイルで、昨年末に完成し実戦配備には数週間程度とされる。これまでの電子回路を破壊するEMP攻撃が高高度核爆発のプラズマを利用しているのに対して、CHAMPは局地戦で使用できる点が大きく異なる。
米海軍の艦船や攻撃型原潜の一部は巡航ミサイルを搭載しているため、CHAMPを相手に知られないように発射し、指揮系統やICBM発射の電子回路を破壊して報復ができない状態にしたあとで、軍事目標を破壊することができる。いわば無血の戦争で北朝鮮に勝利することができるとすれば、ソウルが火の海と脅かしたところで、攻撃すらできない状態に追い込まれることになる。
マイクロ波は携帯電波と同じ周波数帯で周波数を上げれば指向性が高まるので、攻撃目標を定めて局所的に電子回路を使用不能にすることができる。無線、有線が使えなくなるので指揮系統は使用不能、ミサイル発射制御装置も破壊される。これまでソウル市内への報復攻撃や日本へのミサイル攻撃、米国内への核攻撃の報復攻撃の脅威がなくなったとすれば、国境近くに米韓両軍が終結する合同軍事演習を避けたいのも当然である。
マイクロ波兵器の歴史は古い。”Death Ray”もしくは”Death Beam”と呼ばれる指向性のマイクロ波攻撃システムはマルコーニやテスラが提唱したと言われるが、本格的にHPM(High Power Microwave)兵器開発を開始したのは米国空軍で、東西冷戦の最中の50年以上も前である(Weinberger, Nature online Sep. 12, 2012)。
毎年、米空軍はこのプロジェクトに4,700万ドルをつぎ込んで研究開発を継続してきた。著者であり著名な物理学者のワインバーガーは兵器実用化に至っていないとしてHPMを批判している。HPMは使用するマイクロ波(95GHz)が人体には影響を与えないため暴徒鎮圧を想定していたが、高高度核爆発実験でEMPの威力が認識されると、巡航ミサイルに搭載した小型EMP兵器として、昨年のCHAMPでようやく実用兵器となったのである。
CHAMPで変わりつつある対北戦略
CHAMPのXバンド(5-15GHz)マイクロ波は、加速器のRF電源にも用いられる実用的な帯域だが、電子機器(半導体のpn接合)を破壊するため指向性EMPとして威力を発揮する。CHAMPから発せられるマイクロ波は特定周波数のもので人体を損傷せずに、電子回路を破壊するとすれば標的の無力化ができるので、無血で戦争を終結することができる。HPMによる戦略転換は同時に北朝鮮の威嚇が通用しなくなることを意味している。HPMを巡航ミサイルに搭載する上では大容量の電源がネックとなるが、最新のスーパーキャパシタは軽量でバッテリー技術とパワーエレクトロニクスの発展で、技術課題をクリアできる時代となった。
米国が高高度核爆発によるEMP兵器を使う可能性は低いがCHAMPをはじめとするHPMの実戦配備が完了したとすれば、オリンピックを契機とした北朝鮮の対韓国政策の軟化も、軍事演習に神経質になることも理解できる。
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