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米朝首脳会談に時間的余裕ができたことは北朝鮮の交渉に有利になると思われていたが、北朝鮮は演習を口実に突然、南北首脳会談を一方的にキャンセルするなど核兵器の完全廃棄に抵抗する構えをみせている。
トランプ大統領が来月、キム・ジョンイル委員長との会談で、北朝鮮の非核化に向けた取り組みをけん制するためである。ジョン・ボルトン米国務次官補は北朝鮮の非核化を前提にすれば平和国家への転進は期待できると述べた。平和国家とは、世界の他国と行動を共にし、交流するために北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」を行うことが先決であり、それを交渉の最重要課題とすることを確認したものである。
さらに非核化にはイランと同様、核兵器の供給システムを目指す弾道ミサイル計画破棄、化学兵器や生物兵器の破棄、日本の拉致被害者や、誘拐された韓国人の市民解放が含まれるとした。ポンペオ国務長官はこの時点では南北会談が準備中であった13日、米国政府は様々なリスクに対応可能だが北朝鮮指導部が戦略的な変更を了解していると希望的観測を明らかにした。
ポンペオ氏は北朝鮮が非核化の要求に同意すれば、エネルギー開発への米国の直接投資が開かれるとした米国が得意の「飴と鞭の戦略」をちらつかせた。またポンペオ氏は、米国は北朝鮮のインフラ整備、食料問題、厚生面で北朝鮮を支援する用意があるとした。つまり、「検証可能な不可逆的な北朝鮮の非核化」が最優先課題であることを確認した。
ボルトン氏によると、トランプ大統領は、中国とも意見を交換し米中首脳会談の準備を慎重に進めてきたとされるが、前後関係に北朝鮮と大きな隔たりがはっきりした。米国が前提する核兵器廃棄は北朝鮮にとっては切り札であり、核保有国として対等な交渉を主張してきた。米国の考えるリスクのひとつが現実化したが、中間選挙を抱える米国は強硬手段の選択肢はない。北朝鮮の南北会談キャンセルは核廃棄を急ぐ戦略がボルトン氏によるものと読んで、影響力低下を狙ったものと考えられる。核兵器保有国に対する交渉が難しいことと北朝鮮の軟化の狙いを学習しなければ先に進めなくなった。
なお米国は昨年、陸路、海路、空輸を使った核物質輸送計画を準備し世界中の国から安全に核物質を輸送する段取りを完成していた。核廃棄が開始されれば核弾頭を米国のロスアラモス国立研究所に移動し、解体作業を行うことになる。解体に専門家と専用施設が不可欠であるからだ。この作業は軍が主導する作業でウラン濃縮設備のIAEA監査とは別になるため、作業開始は実質的な北朝鮮の軍施設への立ち入りで非武装化に等しい。核兵器保有国が武装解除に協力することはあり得ない。
核兵器解体の最初のステップは核弾頭をICBMから取り外し、(この時点でICBMも廃棄される)コンテナにいれて、解体施設(ロスアラモス)まで輸送する作業である。コンテナにいれさえすれば空輸あるいは海上輸送で米国本土に運び、それから鉄道やトラックで陸路を輸送する。解体に続いて化学的に処理し濃度を低くして長期保存コンテナに収めて貯蔵する。要するに核兵器廃棄作用に入ればICBMも核兵器も廃棄されてしまう。北朝鮮が恐れるのは丸腰になることだが、首脳会談で認めた時点でそれが実現してしまう。
Credit: spectrum.ieee.org
Updated 20.05.2018 12:00 JST
本格的に核兵器廃棄の作業が軍関係者によるもので輸送と解体処理作業の手順は確立しているがtrendswatcherでは、地下のICBMの場所全ての情報開示が必要になるため、工程表の核弾頭の所在を知る段階が困難であることを強調した。
武器を捨てる覚悟がない北朝鮮がトランプ政権の弱みにつけこんで、6.12会談を形骸化して、経済援助を勝ち取りつつ、米国と韓国の政権交代を待つ作戦にでるのではないかという見方が強まっている。一方、中国が現在、ワシントンで米国と貿易交渉の最中であるため、北朝鮮をけしかけて強硬策に転換させたとは考えにくいとする分析もある。
核実験場の閉鎖の公開しても楽観的な推測はできないが、これまでの核交渉の歴史は重く受け止めなくてはならない。