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北朝鮮の非核化の現実度についてメデイアには、北朝鮮が全面的に核兵器とその運搬手段(ICBM)を、体制維持及び経済援助と引き換えに、手放すとする楽観論がメデイアを賑わしている。スタンフォード大学の国際安全保障協力センターが北朝鮮非核化の技術的リスクアセスメントを作成し公表した。
下記に公開されたリスクアセスメントの報告書の結論に補足を加えて紹介する。米国の核兵器製造拠点であるロスアラモス国立研究所の元所長を含む著者らは、核兵器解体の作業の専門家である。
この報告書では北朝鮮が核兵器を含む兵器開発プログラムを意図的に継続してきた事実からみて、北朝鮮が今後も安全保障が確立しない限り兵器開発プログラムを破棄することはない、ことを前提としている。しかし北朝鮮の安全保障は(不可侵条約など)米国のみの協定だけでは実現不可能なことは明白であり、(非核化作業が長期に及ぶため)相当長期に渡る相互協力が不可欠である。
提案する非核化のロードマップは実際の作業のリスクマネージメントに従って作成された。作業計画は核兵器解体に経験豊富な専門家が作成したもので、これまでの北朝鮮非核化の経緯を踏まえており、北朝鮮側が受け入れることが望ましい。ロードマップにはこれから米朝交渉の結果に依存する課題については不確定要素としてあり、交渉の流れに柔軟に対処できるようにしてある。
できるだけ短期間での非核化を希望するトランプ政権にとって魅力的なものにするためには、北朝鮮が非核化の対象を明確にすることと具体的行動が必要になる。
例えば地下核実験場の5月24日の解体は、核実験を即時停止へ移行したものとみなせる。これに続いてプルトニウム製造のための原子炉の稼働停止などが米朝会談に前後して望ましい。
核兵器への道はふたつあり、ひとつはプルトニウム製造でもうひとつはウラン高濃縮である。前者は原子炉閉鎖で対処できる。ウラン濃縮設備の廃棄はより難しいが、さしあたり寧辺のウラン濃縮設備への立ち入りと精製工場の稼働停止が急務である。精製工場閉鎖で寧辺以外の秘密濃縮設備も機能しなくなるからである。
ロードマップに加えて、一連の交渉では作業の進展に必要な措置を議題として協力関係を築くことが重要となる。さらに、各ステップのコストを分析しなければならない。
結局、非核化には北朝鮮の全面的な協力が必要で、米朝が共存を前提として長期にわたり協力関係を継続しなければならない。作業はまず核施設も閉鎖、次に既存の核兵器を撤去、解体、運搬手段(ICBM)の廃棄、将来も製造できないよう廃棄する作業(不可逆的)と将来の監査体制までの膨大なロードマップを歩み出せるかどうかがもうすぐ決まる。6月12日の米朝会談が無事にあったとしても長い道のりの最初の一歩にすぎない。
日本では米朝会談に期待する人が75%という。しかし現実的な作業内容は膨大で長期にわたる交渉と(北朝鮮の)妥協が不可欠となる。また費用負担先が不透明な現時点では悲観的にならざるを得ない。北朝鮮が虎の子の核兵器をあっさり放棄し、数年にわたり協力し続けるとするならば、その代償は何かを考えなくてはならない。
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