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毎年、9月のハッジと呼ばれるイスラム教の巡礼期間中は、何百万人ものイスラム教徒がサウジアラビアのメッカへの巡礼を行う。イスラム教徒にとって、ハジは神聖な宗教的義務であり、信仰の重要な行為である。しかしこの期間は巡礼者による感染症リスクが高まるため、予防措置に追われるサウジアラビアにとって試練の期間となる。
メッカに殺到する巡礼者たち
巡礼で世界183カ国以上から、毎年200万人以上の旅行者がメッカに集まる。これは、世界で最も地理的にも人種的にも極めて大規模な集会の一つであり、地球のすべての地域からの巡礼者が移動する。その規模、密度、人種多様性は、疾病感染のリスクが必然的に増大する。
この規模の国際的な集会では、伝染病のパンデミックリスクは特に高いとは考えにくいが、メッカは公衆衛生上の問題や極端な気温(温度は120°Fを超える)や、混雑度は、病気の伝播、特に空中浮遊や食品媒介病原体や水媒介病原体の感染リスクが増加する。
例えば、結核感染の可能性は、高レベルの暴露群では約10%と推定されている。過去にはメッカ入りした巡礼者の11%が2014年と2015年にインフルエンザウイルス陽性と診断された。世界保健機関(WHO)は、メッカにおけるコレラの感染リスクについて懸念を提起している。
これまでメッカでは大規模な感染症の発生はなかったが、多数の軽微な流行があった。 1つの注目すべき例は、2000年巡礼期間中に発生した血清群W-135髄膜炎菌病の世界的な発生であり、その結果、16ヶ国の巡礼者と密接な連絡を受けた症例は約400例に上った。
サウジアラビアの感染症対策
病気の伝播の懸念から、サウジアラビアの保健省(Ministry of Health、MoH)は、イベント前とイベント中に保健施設の監視とスタッフの強化を行っている。 巡礼でメッカ入りするにはVISAが必要になる。これを取得するために、MoHは、すべての巡礼者に、髄膜炎菌性疾患の予防接種の証明、およびリスクのある場所から来る者のためのポリオおよび黄熱病の生成を要求している。
特に警戒すべき感染症は、気道感染症、食中毒、下痢性疾患、髄膜炎菌病、ウイルス性出血熱(デング熱、黄熱病、MERS、ポリオ、ペストである。
帰国する巡礼者は、帰国時に病気を広げ、故郷の国で発生を引き起こす可能性がある。流行リスクを抑止するためには、サウジアラビアだけでは対処しきれず、WHOを含めた国際機関と巡礼者の居住する国々の保険機関の協力が不可欠である。
エミレーツ航空機の乗客がインフルエンザ集団感染
実際、9月6日、ドバイからニューヨークに到着したエミレーツ航空の旅客100名が発熱と咳で、インフルエンザの集団感染の疑いがある。重篤な患者はメッカ巡礼で感染したことが明らかになっている。水際で感染症の持ち込みを防ぐには、検疫体制や発熱者の赤外線モニタによる判別など、旅行客の利便性と相反する手段を取るざるを得ない。
神聖な宗教儀式とはいえ感染症の拡散や生物テロの脅威が増大する以上、巡礼期間中の警戒レベルを上げざるを得ない。感染症以外にもハッジ期間中には毎年、数100名以上の圧死者がでる。サウジアラビアにとっても巡礼者たちが帰国する国も、試練の時を迎えようとしている。