欧州のディーゼル車公害問題が深刻化

24.09.2018

Photo: autocar

 

 ドイツの自動車メーカーフォルクスワーゲン(VW)グループの一角であるポルシェ社がディーゼル車の製造・販売を停止したことがメデイアを賑わしている。発端はVWのディーゼルゲートだが、すでにほかの大手メーカーにも飛び火し幹部の責任が追及されている。しかし現実にはもっと深刻な健康被害が欧州全土に広まっている企業の公害問題として捉えるべきであり、ポルシェ社の決定は「免罪符」的な意味合いを持つ。

 

 2015年9月、VWは実験室でのテスト中にのみ作動するように排出制御装置を意図的にプログラムすることで、米国での連邦基準検査の不正を行った。これらのデバイスは、現実の運転条件で法的な限界値よりも40倍も高い排出量を出すにもかかわらず、1,100万台以上の乗用車を実験室で米国の排出基準に適合させた。

 

 MITの研究チームの調査によれば、実験室でのテストよりも公道上で排出量が大幅に多い。この調査では、欧州では主要自動車メーカー10社が2000年から2015年に販売されたディーゼル車は、規制テストよりも道路の排出量が最大16倍多いが、EU法に違反するものではない。つまり基準値不適合でも罰則がないのである(Chossiere et al., Atmospheric Environment 189, 89, 2018)。

 

 問題なのは、これらの過剰排出が重大な健康への影響を及ぼし、ヨーロッパで年間約2,700人の早期死亡を引き起こすと予測され、健康被害は、欧州全土に広がっている「越境的」な公害となっていることである。このことは主要10メーカーの超過排出量は違法ではないことが問題で、EUレベルでの試験手順と排出ガス規制の欠陥戦略が責任を負うことを意味している。

 

 この研究は、ディーゼル排気ガス中に生成される窒素酸化物、すなわちNOxの排出に焦点を当てた。ガスが酸化されて大気中のアンモニアと反応すると、それは微粒子を形成し、長距離移動する。これらの粒子が吸入されると、肺に侵入し、呼吸器疾患、喘息、および他の肺および心臓の状態を引き起こす。さらに、NOx排出は、健康に悪影響を及ぼすオゾンの生成を引き起こす。

 

 EUがディーゼル車を推奨していたのは、ガソリンに比べてCO2の排出量が少ないためとされ、消費者も燃費の観点で経済的なディーゼル車を歓迎した。最近になって健康被害が報告されると、EUはディーゼル排気ガスの基準を改め、NOx排出量とそれに伴う健康への影響を重く見るようになってきた。

 

 VW、ルノー、プジョー・シトロエン、フィアット、フォード、ゼネラル・モーターズ、BMW、ダイムラー、トヨタ、現代など、欧州で販売されているディーゼル車の大手自動車メーカー10社は、EU加盟国28カ国、ノルウェー、スイスとともに、2000年から2015年に販売されたディーゼル車の総数の90%以上を占める。

 

 各メーカーについて、実験室試験および独立した公道試験からディーゼル車の過剰排出の総量を計算した結果、ディーゼル車が実験室の測定値に比べて道路上でNOx排出量を最大16倍も大きい。大気中の化学物質と粒子の循環をシミュレートする化学輸送モデル(GEOS-Chem)でNOx排出量が時間の経過とともにどこを追跡したかを追跡した結果、虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、および肺癌を有する成人の4つの主な集団を考慮し、2,700人がNOxのために、少なくとも10年の寿命を失うと推定した。

 

 メーカーごとではVW、ルノー、ゼネラル・モーターズは、早期死亡者数に関連したディーゼル車を生産したが、トヨタ、ヒュンダイ、BMWは関連していた早期死亡者が少ない。メーカー間のバラツキは5倍以上になった。NOxはまずガスとして放出され、アンモニアと反応して微粒子を形成する前に数千キロメートルにわたって風によって容易に運ばれる。最終的に呼吸器および心臓の問題を引き起こす可能性のある化学物質が体内に取り込まれる。

 

 解決策は、NOx排出源であるディーゼル車を完全に排除することしかない。ポルシェ社はいち早くそのことを実践に移したが、その背景には健康被害が国を越えて欧州全土に広がり、ディーゼル車保有率の低い国々でも影響が出る可能性が出てきた影響が大きい。ディーゼルゲートをきっかけに主要メーカーのカルテル疑惑や政府との癒着が表面化するなかで、公害問題は企業にとって致命的であり、芽を摘む努力を率先すれば「免罪符」となると考えても不思議はない。しかしEV化はどうかといえば、電力比率次第ではCO2排出ガスは増える可能性がある。都市でのゼロエミッション達成に向けて世界中の自動車メーカーがこの難題に取り組むことになる。

 

 

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