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米国疾病管理予防センター(CDC)は、毎年、検死官の証明書に記載されている死因を集計している。ランキングトップの心臓病から最下位の猩紅熱に至るリストが毎年発表される。自殺はこの忌わしいリストの10番目あたりにあるが、今回CDCは自殺に着目して、分析した結果、新しい事実が浮かび上がって来た。
2000年頃まで減少を続けている米国の自殺率が、すべての年齢層にわたって、そして男女ともに、上昇傾向がある。老化を考慮した統計が1999年から2014年にかけての15年で、米国の自殺率は24%(注1)も上昇した。
(注1)最近の資料では20年で30%とさらに増えた。
スタンフォード大学とハーバード大学の研究チームは米国の格差が増大したことによる不平等が精神障害(鬱病)と相関を指摘している。自殺率は1986年から2000年にかけて、着実に減少していた。
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OECDのデータベースによれば、米国の自殺率はフランスやベルギーの自殺率よりもかなり低いが、上昇傾向は英国やオランダでも徴候がみられる。金融危機が深刻化した2007年以降の上昇は、経済の状況を鋭く反映したととれる。
しかし、CDCのデータは、増加の原因がそれよりも複雑であると示唆している。地図上では北のモンタナから南のニューメキシコ、西にはネバダ、東にはコロラドにかけての帯状の特定地域に多く、人口統計との関連が無視できないことを示している。ネイティブアメリカンと非ヒスパニック系の白人は、他の民族よりも自殺傾向が強いが、目立たないで死ねる西部の山奧や砂漠は自殺の場所になっている。
自殺者に多いのは白人男性
年齢別にみると、自殺のリスクが最も高いグループは、情緒不安な青年ではなく、中年以上の男性であることは興味深い。つまり若さ故に自暴自棄に走るのではなく人生を終えようとする高齢者に生きている価値がないと思わせるような社会に問題があるのかも知れない。2017年に限れば77%が男性で、83%が白人である。
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貧困率との相関
しかし近年の米国の都市部における犯罪率は、1990年くらいから減少を続けており傾向が逆である。犯罪率増加と自殺率増加の相関は乏しい。一方、減少傾向にあった貧困率が増加傾向に転じるのは2000年である。2000年をテイッピングポイントとして、傾向が反転する貧困率と自殺率に相関がある。また白人男性が米国民の精神的拠り所であった希望(アメリカン・ドリーム)をもてない社会に絶望した事が背景にある。下に示したV字型の変化は自殺率の変化によく似ている。
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増大する抗鬱剤の処方
そのほかに鬱病の増加で抗鬱剤の処方が増えたことも関わりがあるかも知れない。副作用で自殺願望を引き起こすことも報告されているが、長期的な服用者が2000年以降で3倍に増えている。様々な要因が重なって自殺率の増加に繋がった可能性がある。安全に暮らせる外国に居住する米国の退職者たちが増えているという。
なお米国人の3人に1人が鬱病の症状を副作用に持つ薬剤を服用していることがわかった。抗鬱剤を処方されればその副作用で自殺願望を持つ場合がある。鎮痛剤のオピオイドなど副作用が危険な医薬品でも薬品メーカーと癒着して処方を続けると医師側にも問題がある。
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