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ドイツのマース外務大臣は米国から独立した、欧州独自の金融決済システムを構築する必要性を21日、独ビジネス紙のHandenblattで指摘した。主要同盟国が脱ドル化を提唱するのは初めてである。EUにNATO以外の欧州防衛軍(EU軍)の設立を積極的に進めるドイツは、経済面でも米国の影響力を受けない枠組みを模索し始めた。
米独関係の悪化
米独関係は15年以上前から悪化、これまで最悪の状態まで落ち込んでいる。2003年のイラク戦争を巡り、戦争に踏み切った米国に対し、ドイツが反対姿勢を示したこと、ほとんどの西洋諸国が加盟した国際刑事裁判所の加盟を米国は拒否(世界123カ国が加盟、イスラエル、アメリカ、スーダン、ロシアの4カ国が非加盟国)、ドイツ経済界が反対する中の米国のロシアへの追加経済制裁、2013年には2005年から米情報機関の監視対象であったメルケル首相の通信盗聴を含むスパイ疑惑が発覚するなど、両国の国益と外交政策の相違で関係は悪化した。
さらにトランプ政権下のパリ協定からの撤退、NATOの責任分担の問題(ドイツがGDP2%の国防支出を満たしていないことへの批判)、NATO加盟国の国防負担を4%に増加要求、ロシアからの天然ガスパイプラインの建設へ反対、欧州からの鉄鋼・アルミニウム輸入関税の引き上げ、突然のイラン核合意離脱、イランへの経済制裁などを巡り、ドイツが米国との友好関係を維持することがますます難しい状況にまで追い込まれている。
ドイツの米国離れが地政学的、軍事面で加速する中で金融面でも独自の決済システム構築の可能性を示唆し、両国間の関係悪化に歯止めがかからない。
新しい金融決済システムの構築
現在、世界中の金融機関が国際取引を行う際に、SWIFT (Society Worldwide Interbank Financial Telecommunication)通信ネットワークを使っている。各国の中央銀行、銀行、証券・投資会社などのインフラと連携しながら、金融取引などにおける決済の主要メッセージインフラを提供する決済システムである。
米国はこのSWIFTシステムを利用しながら、対ロシアや対イランの経済制裁を実施してきた。ロシアやイランと取引を続ける企業には「2次制裁」が課せられてきた。イラン核合意離脱後に米国が再開した経済制裁も、欧州企業に大きな影響を与え、欧州は国益のためにはならないと批判した。ドイツは影響受ける企業には支援する対応策をとるとしているが、影響を完全に遮断することは不可能である。このように、SWIFTシステムを利用しながら、米国は自国の外交政策を進めてきた。
マース外相の見解は「個人」のものであり、メルケル政権の見解ではないことを明確に示したメルケル首相ではあるが、地政学的に米国の影響力の低下とともに長期的には環大西洋関係の変化、米国からの独立色を強める方向を模索始めたことを示した発言である。ただし実施に際しては通信体系の整備などシステム構築の道は険しい。
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