ミリ波帯で家庭での超高速通信が可能に

22.11.2018

Credit: ETH

 

ETHチューリッヒの研究チームは、ミリ波帯を介して伝送されるデータを光ファイバの光パルスに直接変換できる変調器を開発した。研究チームの開発した光変調器は、自動車のレーダーに使われるミリ波帯のマイクロ波通信で高いデータ伝送速度を実現した。これによって家庭の高速インターネット回線が低コストで実現できるようになると期待されている(Salamin et al., Nature Photonics online Oct., 2018)。

 

ファイバーケーブルを介した光通信でGb/秒の高速通信が可能でだが、光ファイバーから自宅のLANまでの最終段接続は技術的に難しく高コストで全体の通信速度のボトルネックであった。例えば、4G / 5G携帯電話のマイクロ波通信は比較的低コストに実現できるが、ストリーミングTVなどの大量データ通信アプリケーションをすべてのユーザーに同時に提供することはできなかった。

 

ミリ波帯で光強度の変調で光ファイバに符号化されたデータを転送するためには、非常に高速の(高価な)電子部品が必要となる。まずミリ波をアンテナで受信し、増幅してベースバンドに混合し、最終的に光変調器で電波に含まれるデータを光パルスに変換する。

研究チームはバッテリーと電子回路なしで動作する光変調器の開発に成功した。 変調器は非常に小さいので、そこから個々の家屋からのマイクロ波信号を介してデータを受信し、それらを中央の光ファイバーに直接導入できる(下図)。

 

 

Credit: ETH

 

この変調器(プラズモン変調器)にはミリ波を受信し、それらを電圧に変換するマイクロ波アンテナも含まれる。変調器の心臓部であるチップ中央には数μx100nm程度の狭いスリットがあり、ファイバーからの光ビームはスリットの内部では、電磁波としてではなくプラズモンとして伝搬する。 ミリ波に含まれるデータビットは、電子回路を使わず、(したがって外部電源を必要とせずに)光パルスに直接変換される。 60GHzのマイクロ波信号を用いた実験室実験では、5mの距離で1秒当たり最大10Gb/秒、1mにつき20Gb/秒のデータ伝送速度を実証した。現在、家庭で光回線で使われている100Gb/秒の10倍の高速通信が実現できることになる。

 

この変調器は、新しい5G技術と、300ギガヘルツのミリ波およびテラヘルツ帯と100Gb/秒までのデータ伝送の将来の業界標準と互換性がある。5G帯の実用化を前に人体への影響が懸念されているが、あらゆる方向に均一に伝播するWiFiモデムの電波またはマイクロ波とは異なり、ミリ波帯は指向性が強く、屋根アンテナと直径20cmの受信機との近距離を伝播するだけで、他の無線技術と比較して、送信に必要な電力が大幅に削減され、人体への影響も少ない。下はプラズモン変調器の原理。