Credit: Stanford/Jacobson
かつてのエネルギー資源大国といえば、石炭、石油そして天然ガスを大量に生産し輸出する国々であった。2050年以降とされる化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が完了する未来で、覇権を握る再生可能エネルギー大国はどの国なのだろうか。地球上に溢れる再生可能エネルギーだが、利用するには設備投資と特定資源の確保が鍵となる。
再生可能エネルギー特定資源国とは
再生可能エネルギー利用には特定資源(注1)が欠かせない。太陽光パネルは材料であるシリコンが必要になり、Liイオンバッテリーの鍵となる原料はLiである。磁石を製造するためにはNd、Laなど希土類金属が必要であり、発電機、モーターの製造や配線・送電には銅が欠かせない。下図はシリコン生産量の変化。
(注1)風力、太陽光など種別に対応した利用(発電)に必要な資源を特定資源と呼ぶことにする。
Credit: Powell et al.
脱炭素で再生可能エネルギーに依存するには、発電設備を製造するのに不可欠な特定資源の供給が鍵となる。では再生可能エネルギーを基盤とする未来社会で覇権を握るのは特定資源が豊かな国になるのだろうか。
特定資源に参入する新興国
天然ガスの生産量上位5カ国はイラン、ロシア、カタール、トルクメニスタン、米国、石炭産出上位5カ国は米国、中国、ロシアにオーストラリア、インドの5カ国となる。それに対して再生可能エネルギー大国はシリコン資源で見れば、中国、米国、ロシアとなるがブラジルとノルウエーが続く。また米国と中国は銅生産でも主要な産出国であったが、枯渇によって生産量の減少が続いている。一方、チリ、ペルー、コンゴ、インドネシアなど開発途上国が追い上げている。
中国、アルゼンチン、オーストラリアを抜いてLiの埋蔵量で世界一となるのはチリである。また希土類金属は中国、ロシア、ブラジル、ベトナムが主要な生産国である。一方、化石燃料産出国の中で再生可能エネルギー化が実現しそうな国は米国、中国、ロシア、カナダとなる。主要な再生可能エネルギー資源国も化石燃料資源国と重なる場合が多い一方で、化石燃料が姿を消す未来社会では新たな資源国が登場することになる。下図に銅生産量の変化を示す。
国際カルテルかエネルギー植民地支配か
0PEC加盟国14カ国は世界の石油供給量の半分以上を生産するが、化石燃料が使われない未来社会、エネルギー供給の中心が中東からアフリカ、南米に移動するとともに、再生可能エネルギー資源国連合が形成されるかもしれない。しかしエネルギーのシフトが平和的に起こるとは限らない。実際、20世紀の紛争の多くは石油資源の争奪を巡ってであった。再生可能エネルギーへの転換でも紛争が起きる可能性は否定できない。再生可能エネルギーで覇権をとるには特定資源の確保が不可避だからである。
では未来社会で起こり得る再生可能エネルギーを巡る紛争シナリオとはどのようなものが考えられるだろうか。再生可能エネルギー資源(シリコン、銅、Li、希土類金属)を押さえて覇権を握ろうとするOPEC的な連合が形成されるか、新植民地支配で新興国の資源が搾取されるシナリオが考えられる。どちらの場合にも競争する国々は互いに特定資源の供給を制限し、これをきっかけに紛争に発展する恐れがある。
ただし石油・天然ガスは前者が消費物資であり掘削施設が停止すれば供給不能となるがと、再生可能エネルギーは無尽蔵のエネルギーを継続して供給できるし施設の建設が終われば特定資源も不要となる。
再生可能エネルギーを化石燃料を置き換えた先進国は、再生可能エネルギー連合のシナリオの影響を受けにくく、逆に転換が遅れた国は様々な不利益を被る可能性が高い。何れにしても再生可能エネルギー特定資源の産出国は、資源の独占利益を目的とした国際カルテルを作ることは避けなくてはならない。