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現代の癌治療の課題は標準療法(外科手術・放射線治療・化学療法)に固執する日本の閉鎖的な治療体制にある。このため大半の病院では患者はいやおうなしに標準療法のレールにのせられ、体質・体力や癌細胞の個体差は無視され決まった手順にのって治療計画が決まる。
一方で被曝が避けられない放射線治療に代わる粒子線照射などの先進治療は、膨大な国税が投入されたにもかかわらず、保険対象外で一回の照射が300万円という。これでは一般的な治療法とは言い難い。また海外でさかんになってきた免疫療法はいまだに国内では主流ではなく、特定のクリニックでしか受けられないのが現実である。
最新のビッグデータに基づいた調査研究で乳癌について化学療法への危惧が証明されることになった。患者のリスクアセスメントに遺伝子検査を使用した研究早期乳癌の最も多くみられる女性患者の大半は、化学療法を安全に回避することができることがわかった。
ニューヨークのモンテフィオーレ・メディカル・センターの研究グループは乳癌治療の追跡調査(New England Journal of Medicine)でこれまでに行われた最大規模の研究で、乳癌の女性の多くは、手術やホルモン療法以外の治療は必要としないこと、すなわち化学療法の意味がない、ことを明らかにした。
化学療法から脱却しつつある癌治療
癌治療は、化学療法(厳しい副作用を伴う高額の薬物)の時代から、遺伝子標的療法、ホルモン遮断薬および免疫系治療へと進化している。化学療法を使用する場合でも、以前よりはるかに短期間もしくは低用量である。
例えば、メルクの免疫療法剤Keytrudaが、最も一般的な肺癌を有するほとんどの人患者にとって、化学療法よりも優れた作用を示し、副作用ははるかに少ない。
最近の乳癌の研究では、化学療法の価値が疑わしいケースが多くなってきた。リンパ節にまで広がっていない早期疾患の女性は、ホルモン陽性で(エストロゲンまたはプロゲステロンによって成長が促進される)、ハーセプチンの標的となる。
しかし通常の治療は、手術後数年間にわたるホルモン遮断薬による治療であるが、多くの女性には、手術では取りきれなかった癌細胞を殺す化学療法を受けることになる。医者も術後の化学療法を必要としないことに気がついていても、リスク対策として処方する。
遺伝子検査のビッグデータ
この研究では、10,273例の患者にOncotype DX(注1)という手法で、生検試料を用いて細胞増殖およびホルモン療法に対する遺伝子の活性を測定し、癌が再発するリスクを推定した。その結果、女性の約17%が高リスクのスコアを有し、化学療法を受けるよう勧告された。低リスクスコアを有する16%は、化学療法を回避した。中間リスクの67%の患者は手術とホルモン療法を受け、その半分も化学療法を追加した。
(注1)米国ではOncotype DXの費用は約4000ドルで、他にも同じ内容の遺伝子検査システムがあり多くの保険が適用される。
9年後、両群の94%が生存しており、約84%が癌の兆候なしに生存していた。注目すべき点は化学療法を追加しても生存率に有意な差はなかったことである。ただし50歳以下の遺伝子検査のリスクスコアに応じて、化学療法を受けた患者は、乳癌が転移したケースがわずかに少なかった。
日本の癌死亡者数は年々増加の傾向にあり、先進国中では例外的な傾向にある。もしこれが陳腐化した標準療法に固執し、薬剤会社の権益を守ることが原因のひとつであるならば、先進国とは言い難い。閉鎖的な標準治療、特に術後の化学療法の妥当性をいますぐ見直すべきだろう。必要のない化学療法を強要され苦痛を味わった患者からすれば、患者の個体差(遺伝子検査)を無視して杓子定規で標準療法のレールにのせようとする医師は、どう考えるのだろうか。
化学療法がはびこる原因に、化学療法の抗癌剤のメーカーと癒着した体制にあるとして、批判する医師もいたが陰謀論として無視された。しかしこれが日本社会の閉鎖性、保守性にも関わる問題なら、患者も医師も考え直すべき好機と解釈したい。いったん様式が標準とされると一人歩きしだして強い慣性が働き、止めようにも止まらない。この傾向は日本社会のいたるところにに見られる。