グローニンゲン大学のスピントロニクス研究チームはスピン電流を磁場で制御する3端子スピントランジスタ実現への動作原理を実証することに成功した。スピン流(マグノン)で動作するトランジスタ回路の実現は、スピントロニクスデバイスの実用化に向けての大きく進展したことになる(Cornelissen et al., Phy. Rev. Lett. online Feb. 5, 2018)。
従来の電子回路は論理回路(トランジスタ)とメモリが別々のデバイスで接続されていたことが、高速演算のネックとなっていた。スピントロニクスでは論理回路と不揮発性メモリがひとつのデバイスで実現できる。研究チームは磁性絶縁体(YIG)(注1)にプラチナ電極をつけて電流を流し、スピンホール効果(注2)で上向きスピンと下向きを分離してマグノン(スピン波)を発生させた。
(注1)イットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)は代表的なフェリ磁性化合物(フェライト)。YIGは低減衰率で静磁波,スピン波,磁気弾性波,磁気表面波などを伝搬させることができる。3端子スピン波位相干渉素子への研究がある。
(注2)電流を流すと電流と垂直の方向にスピン流が発生する効果。電流を入力とするスピンホール効果はスピントロニクス(論理回路やメモリ素子)の基本原理である。スピン流を電流に変換する逆スピンホール効果や温度差でスピン流を発生するスピンゼーベック効果とともに、スピントロニクスの基礎物理として世界中で精力的に研究開発が行われている。
電子は磁性体であるYIGバルクに侵入できないため、金属プラチナとYIG界面では電子は跳ね返ってくるがこの時スピンの向きが逆転し、スピンの向きが揃ったマグノンが形成される。研究チームはさらに3番目のプラチナ電極を加えて電圧をかけることで、さらにマグノンを注入したり、マグノンを減少させることが可能であることを実証した。
これは従来のゲート電極が電流スイッチングを行う電界効果トランジスタの基本的な論理阻止である3端子トランジスタをスピン電流に対して実現したことに相当する。マグノンを完全に消し去るまでには至っていないが、膜厚を小さくすることで残ったマグノンを減らせるとしている。
研究チームはYIGの熱マグノンの拡散輸送が第3端子(変調電極)よるマグノンのスピンホール注入によってマグノン化学ポテンシャルを介して制御されることを見出した。 変調効率は250Kで1.6%/mAで薄膜化で10%/mAまで増加できる。
さらに研究チームは薄膜化によってチャネルに閉じ込められたマグノンがボーズアインシュタイン凝縮するまで増やすことが可能であるとしている。これは室温で超伝導状態を作り出すことが可能になり、高温超伝導研究の悲願であった室温超伝導が実現することも期待できる。YIG3端子マグノントランジスタは最初のスピンデバイスになるばかりでなく、高温超伝導を室温で実現する可能性から注目を集めている。YIGマグノントランジスタの制御がDC電流で行えることは従来の電子回路と整合するため、実用化にとって大きなメリットとなる。
関連記事
ハイブリッド・ペロブスカイトで実用化に近づいたスピントロニクス