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量産車種モデル3の生産計画の成否にテスラ社の将来が左右される、と言っても過言でない。隙間だらけの外装や見えない部分の雑な作りには目を瞑るとしても、EVとしての性能優位性が大手メーカー各社の熾烈な追い上げで少なくなってきた現在、オーダーに答えられるのか懐疑的な意見も目立つようになった。
車に詳しい人なら前例のないモデル3の生産計画に眉をひそめるかもしれない。イーロン・マスクは今年7月の時点での毎週1,000台、9月までに毎週4,000台、12月までに毎週5,000台の生産計画を目標とした。この数字はちなみに大手メーカーで行くとBMW 3シリーズ、メルセデスベンツC―クラスの北米市場販売に匹敵する。2017年の北米市場で最も売れたSUVはトヨタRav4で407,594台。週5,000台ペースが実現すれば年間240,000台である。
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テスラ社はではどのようにモデル3増産を計画しているのだろうか。マスクCEOによれば生産速度を10倍に増大することになる。そのためには製造ラインのロボット化を進め、ほとんどの作業を自動化するしかない。もちろん製造ラインの完全自動化が現実的でないことは明らかである。
ただしテスラ社にはいくつか時短の秘策がある。例えば大手自動車メーカーは製造ラインのフル稼働前に6カ月の試験期間を経るが、テスラ社は最初のロットを社員に購買させて社員による試験でこの期間を短縮した。
同様にユーザーがベータ版の自動運転ソフト(オートパイロット)の試験走行結果を集めて、公道試験を省いてアップグレードに関わる開発期間を短縮した。最近ではウーバー社の行動試験中に重大事故が発生したが、テスラEVではテスラ社員やテスラEV支持者たちが、ソフトアップグレードの試験結果(データ)を自主的に行うのでフイードバックの効率が高い。マスクCEOによればこうしたユーザーが自主的に行う試験は距離に換算して20億マイルに及ぶとしている。
一方、テスラ社は資金調達について深刻な問題を抱える。多くの投資家の懸念を代表するのがブルームバーグの見解で、テスラ社の現金燃焼ペースは2018年8月までに保有現金が消滅すると予測している。モデル3の増産計画は資金調達のためにも不可欠なのである。
テスラ社は資金調達のために株式、転換社債、ジャンク債を発行してきたが今年に入って5.46億ドル相当の資産担保証券(ABS)のマーケテイングを開始した。もちろん50万台を超えるとされるモデル3のバックオーダーを消化するには、不足することは間違いない。
現実には3月までに5,000台生産する公言はあっけなく破られた。下に示すマスクCEOのTwitterは現実との隔たりを認識せざるを得ない。それでもテスラ社に想いを馳せる熱烈なユーザーはいつになるかわからないモデル3納車を待ち続ける。マスクCEOはそうした熱烈なテスラフリークたちの期待に答える義務がある。コストを追求するだけでないフリークたちは製品を手に入れることよりもイノベーションに参画することに意義を感じているとしたら、待たされることは苦ではないのかもしれない。