ドイツの送電網が増強される理由

09.07.2018

Photo: phys.org

 

再生可能エネルギーの比率を高めると必要になるのが送電網の増強である。すでに日本国内でも送電網の容量不足で売電が制限される事態が起きているが、ドイツでも国策で進めたエネルギー転換で送電網の拡張が必要になった。

 

現在のドイツの送電網の長さは約35,000kmである。再生可能エネルギー源から発生する電力を必要な場所に送電するために、約5,300kmの送電網延長が必要である。カールスルーエ工科大学(KIT)と送電網を管理する企業(TenneT)は、従来の短距離送電網の電源ケーブルの代替として超伝導技術のR&Dを共同で開始した。

 

KITによって設計された超伝導ケーブルのフィージビリティスタディは、ドイツの送電網の380キロボルト(kV)の電圧用に特別に設計されたケーブルおよび冷却原理に基づいている。送電システムは、2,300メガワット(MW)の連続出力用に設計されている。高電流負荷下での超伝導ケーブルのエネルギー損失は、同等の地上線または銅導体を備えた従来のケーブルの損失よりも著しく小さい。 

 

超伝導体は、転移温度以下で超伝導となり電気抵抗がゼロになる。その結果、超伝導材料でエネルギーは、ほとんど損失を伴わずに送電が可能である。送電網のための新しい超伝導ケーブルではセラミック高温超伝導体が使用される。従来の低温超伝導体は23K未満、すなわち-250℃を下回る転移温度を有するが、高温超伝導体は比較的高い転移温度を有する。液体窒素の場合、それらは約77Kの動作温度、すなわちマイナス196℃に冷却されれば良いので、冷却に必要なエネルギーがより少なく比較的低コストで運転することができる。

 

送電網の従来のケーブルシステムでは、三相電源ケーブルが12本必要になるのに対して超伝導ケーブルシステムでは6本のケーブルで済むためコンパクト化ができる。またケーブルの外側に無駄な誘導電流が生じないため磁場が存在せず、ケーブルは損失なしで動作することが利点となる。

 

 

Credit: renewableenergyfocus

 

実現には冷却システムとテストを重ねる必要があるが、KITが開発予定の超伝導ケーブルは、長さが1kmを超える、世界で最長の高温超伝導ケーブルで、エッセン市では約11,000kVの高電圧送電線で、約10,000世帯の効率的で安定した電力供給が可能になる。

 

日本でも超伝導ケーブルのR&Dは活発に行われているが、コストの面から実用化に至っていない。技術的に先行していながら再生可能エネルギー化が進まない日本を尻目に、ドイツが再生可能エネルギー比率増大で送電網の脆弱性が目立つようなり、超伝導ケーブル実用化に近づいたのは皮肉な話である。