Credit: Henk Bonder, University of Groningen
磁気メモリの代わりに強誘電体メモリを使用すると、発熱がないためエネルギーが節約できる。またナノスケール強誘電体メモリが実現できると、メモリ密度の限界を越えることも同時に可能になるが、実用化を阻む問題は、サイズを小さくすると強誘電体特性が消滅することであった。グローニンゲン大学の研究チームは、ナノスケールの強誘電体を作る材料として酸化ハフニウムが使えることをみいだした(Wei et al., Nature Mater. online Oct. 22, 2018 )。
強誘電体材料の自発的双極子モーメントの向きを(1,0)ビットに対応させて情報記録に使うことができる。実際、強誘電体メモリはFRAMとして市販化も行われている。強誘電体ビットの利点は、それらが低電圧および電力で書き込むことができることである。一方で強誘電体の欠点は、整列した双極子マクロ特性は大きな集団で安定し、結晶を小さくすると最終的に双極子モーメントが消滅することである。下図に示すようにハフニウム酸化物の強誘電体特性は結晶構造に強く依存する。
Credit: ferroelectric-memory.com
強誘電体材料のサイズを縮小する試みは、過去20年以上にわたって研究者を悩ませてきた。しかし約8年前、ドイツのドレスデンにあるナノエレクトロニクス材料研究所の研究チームによって、酸化ハフニウム薄膜が10ナノメートルより薄い場合には強誘電性であり、より厚い膜は実際に強誘電性を失うという衝撃的な事実が発表された。ドレスデングループはまたハフニウム酸化膜で電界効果トランジスタの原理も発表したことで、一気にハフニウム酸化物への関心が高まった。
しかし薄膜の膜厚依存性は従来の理解に反するものだったので、ほとんどの科学者はこの発表に懐疑的だった。これらの研究で使用された強誘電性ハフニウム試料が多結晶で、その奇異な現象の解明に不利な複数の相を示したためであった。下図はZrとの混晶ハフニウム酸化物で薄膜エピ膜のPV特性。
Credit: cambridge.org
グローニンゲン大学の研究チームは基板上に単相薄膜を成長させ、X線散乱と高分解能電子顕微鏡を用いて、10ナノメートル以下の超薄膜が強誘電性に必要な極性構造で成長することをみつけた。この格子歪みを持つナノ材料が強誘電性であることが確認された。
さらに成長層が10ナノメートルを超えたとき結晶構造が変化し、ドレスデン研究所の結果を再現することがわかった。ノーダ氏は、「全く異なる方法を用いたが、同様の結論に達した。これは、酸化ハフニウムナノ結晶の強誘電性を実証する結果となった。
ナノ結晶は強誘電性となり、サイズの増大とともに酸化ハフニウム結晶はこの性質を失う。酸化ハフニウムの状態図ではナノサイズでは、粒子は表面エネルギーが大きく、最大5ギガパスカルの圧力がかかる。相図は、そのような圧力で異なる結晶配列となる。
もう1つの重要な発見は、ドレスデンの薄膜とは対照的に、新しいナノ結晶は強誘電体となるための「ウェイクアップ」サイクル(注1)を必要としないことである。
(注1)以前の薄膜結晶は、多くのスイッチングサイクルを経た後に強誘電体となった。今回のナノ材料ではこのサイクルが必要ない。
酸化ハフニウムはナノスケールで強誘電体であることが確立された。これは、この材料から非常に小さなビットを構成できることを意味し、低電圧で切り替えるメモリの実用化に近づいた。さらに磁気ビットと強誘電ビットの組み合わせはメモリ次元の自由度を増やし、各ビットが情報の2倍を格納することを可能にする。磁気メモリを置き換える以外にハイブリッド化で高密度メモリへの道も開かれる。将来のメモリ市場は大きく変貌するものと考えられる。