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生物模倣T細胞は、癌や自己免疫疾患を治療するためのより効果的な薬物への鍵となると同時に、ヒトの免疫細胞の理解につながる。生物模倣T細胞はまた、癌または免疫不全を有する人々の免疫系を高めることにも有効である。UCLAの研究チームは、ヒトT細胞のほぼ完全な機能を持つ生物模倣Tリンパ球(T細胞)の開発に成功した(Hasani-Sadrabadi et al., Adv. Mat. Online June 01, 2018)。
T細胞は複雑な構造とその多機能性のため、研究室でそれらを複製することが困難であった。自然T細胞は非常に弱く、人間や他の動物から抽出された後、わずか数日間しか生存しないため、研究対象にすることができなかった。
T細胞は、免疫系において重要な役割を果たす。感染が身体に入ると活性化され、血流を流れて感染部分に到達する。T細胞はこのため通常のサイズの4分の1に変形する能力を持つ一方で、免疫系を攻撃する抗原との戦いでは元のサイズの約3倍まで成長する。
最近まで、ヒトT細胞の複雑な性質を模倣することができなかったが、研究チームは、その形状、大きさ、柔軟性を再現しT細胞の基本機能を持たせることに成功した。研究チームは、マイクロチャネルを用いてT細胞を作製した。 具体的にはサブミリメータスケールで鉱物油とアルギン酸バイオポリマー、多糖類と水でできた物質を反応させた結果、自然T細胞の形態および構造を複製するアルギン酸塩の微粒子が形成され、カルシウムイオン浴から微粒子を収集し、浴中のカルシウムイオンの濃度を変えることによってその弾性を調整した。
Credit: erc.msstate.edu
物理的性質を持つT細胞を人間の細胞に浸透し、細胞メッセンジャーを放出させるために、T細胞をリン脂質でコーティングし、その外見がヒトの細胞膜を酷く模倣するようにした。さらに生体共役反応(注1)(を使用して、T細胞をCD4シグナル伝達物質(天然T細胞を活性化して感染または癌細胞を攻撃する粒子、上図)と結合した。
(注1)2つの生体関連分子を共有結合で連結させる手法。主に蛋白質を標的として
人工分子と共役させる次世代医薬を製造するために不可欠な技術。
ナチュラルキラー細胞やマイクロファージなどの様々なタイプの人工細胞を作製するために同じプロセスを用いることができる。将来、このアプローチは、ヒト細胞を模倣する広範囲の合成細胞のデータベースを開発するのに役立つ可能性がある。