Photo: news.mit.edu
コペンハーゲン大学の研究チームの富裕層と最貧困層の平均寿命に関する新しい研究結果はそれらの間に大きな違いがあるとする従来の理解に相反する。研究チームによれば、以前の研究で想定されていたように、人々は必ずしも貧しいままでいるとは限らない。さまざまなレベルの社会の人々の平均余命を所得クラス間の移動性を考慮して解析した結果は、現実には富裕層と貧困層の人生の差はそれほど大きくない(Thustrup et al., PNAS online July 6, 2018)。
ハーバードの研究チームは、2016年米国医師会のジャーナルに、米国の高所得者は、低所得の人よりも40歳で6.5歳長く生きるとした研究結果を発表した。この研究は反響が大きく、米国における健康の不平等に関する議論を引き起こした。
この研究で使われた調査方法では、貧困層が貧困層に、富裕層が残りの人生で留まることを前提としている。しかし、現実には10年間で最も貧しい人々の半分は実際に所得の高いグループに移り、同様に、富裕層の半数は低所得層に移行する。異なる所得階級に移動する人の死亡率は、同じ階級に留まる人とは大きく異なることは事実だが所得層間で移動が起こる。
所得クラス間の移動性は、これまで人口の異なるグループ間で平均余命を計算する際に問題となったが、コペンハーゲン大学の研究チームは、古典的な社会移動性モデルを取り入れることにより、所得と平均余命の関係に所得移動を取り入れて解析する方法を考案した。
研究チームは、1983-2013年のデンマークの女性と男性の公式の収入と死亡率の記録に基づいて、デンマークの40歳の平均余命を計算することによって、この手法を検証した。
富裕層は、貧しい人々より長く生きるわけではない
40歳の男性の平均余命(下図)。以前の研究方法では、年収の高い40歳の男性は、同年齢の低所得者(黒のグラフ)より6年間長く生きる。所得動向を考慮すると、高所得層の40歳の男性の平均余命は77.6歳であり、貧困層の男性の平均寿命は75.2歳(2.4年の差)となる。女性の場合、高所得層と低所得層の差は2.2年となる。所得クラス移動を考慮に入れないと、平均余命の差は男性と女性の両方で約5年の2倍になる。移動を考慮した場合、米国における差異が6.5年ではなく3年である。
Credit: PNAS
この結果は、社会における不平等の尺度の一つ、所得層と寿命の相関を正しく評価している。所得クラス間の移動性を考慮しないと、寿命の不平等が著しく誇張されることが明らかになった。
しかし平均寿命の不平等が以前予想されていた半分にすぎないと判明したにもかかわらず、貧困層と貧困層の寿命の格差が増大しつつある。デンマークが福祉国家であるとはいえ、高所得で高等教育を受けた人たちは新しい治療法と疾病予防を受けられることが平均寿命に寄与している。
所得格差が増大する一方であるため、所得層による平均寿命にも不公平さが顕著になることは避けられない。また所得層間の移動の低下は一度貧困層に落ち込むと、二度と底辺から抜け出せない社会を意味している。格差是正だけでなく社会のバイタリテイである所得層間の移動性を維持しなければ、社会的不安や国家の求心力低下に結びつくだろう。