ホワイトグラフェン(BNナノ構造体)による水素貯蔵

13.03.2018

Photo: extremetech

 

単位重さあたりの貯蔵エネルギー量が化石燃料を圧倒する水素は、再生可能エネルギーを貯蔵する有望な化学物質である。ライス大学の研究チームはホワイトグラフェン(h-BN極薄膜)層が5.2Å離れて積み重なったナノ構造体が理想的な水素を貯蔵物質となることを明らかにした(Sakhavand and Zhao, Small. Online 1Mar. 08, 2018)。

 

水素を燃焼させたり燃料電池で発電する際の最終生成物は水でゼロエミッションとなることも水素貯蔵で再生可能エネルギー比率100%を実現するための鍵となるため、光触媒や人工光合成などの水素製造技術の研究が加速している。水素エネルギーへの批判もあるが、2021年までに54億ドル(約6,500億円)市場となる見込みである。

 

水素エネルギーへの批判の多くが輸送・貯蔵技術と安全補償である。大容量の水素貯蔵・輸送は液体水素による方式が研究されてきたが、燃料電池車(FCV)のように小規模の貯蔵方法については、高圧力容器では限界がある、というのが批判の対象となることが多い。

 

研究チームはスパコンを使った第一原理計算によって最適な水素貯蔵物質がホワイトグラフェンと呼ばれるh-BN原子層であることを見出した。ホワイトグラフェンと呼ぶ理由はh-BNがグラフェン膜と同じ構造の原子配列をとるのためである。実際、水素吸着特性はグラフェン、カーボンナノチューブやBNとの混合よりも優れている。ホワイトグラフェンは下図に示すように、層間距離の異なるナノ構造体がつくれる。

 

 

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BNは水素を物理吸着しているだけなので脱着が容易である。水素彫像量を最大にするための構造はBNシートとチューブを対象とした場合、それらの間隔が重要なパラメータとなる。そのままだと3Åの間隔は水素を吸着するのに狭すぎるが6Å以上でも貯蔵量が減少する。シート間に支えを入れて5.2Åにすることで貯蔵量を最大にできることがわかった。最適化されたホワイトグラフェンはこれまでの最高性能となる室温で8.65重量%の水素貯蔵能力(注1)を有している。

 

(注1)エネルギー省の水素貯蔵能力は7.5%以上が要求されている。

 

また機械的な衝撃にも耐え、電位差、加熱、電場などを印加することで水素脱離が可能なホワイトグラフェンは水素貯蔵物質として実用化が期待される。ナノ構造体の最適化には経験的手法に頼らない第一原理計算が必要となり、スパコンなどの高性能計算機資源が不可欠となる。

 

水素社会というと遠い未来のように思うかもしれないが、貯蔵エネルギー媒体として水素が最適であることは間違いない。水素の輸送・貯蔵技術の進展を考慮するとむしろ現実的なレベルに近いといえる。