マルチダブレットモデルが反物質がない理由を説明

14.11.2018

Photo: steemkr

 

ヘルシンキ大学の研究チームはマルチダブレットモデル(2ヒッグスダブレットモデル)と計算機ミュレーションで、「なぜ宇宙には反物質よりも普通の物質が圧倒的に多いのか」という疑問に応えようとしている。このシミュレーションは、ビッグバン以降の宇宙創生条件を調べる新しい方法で、素粒子物理の残された重要課題に答えることができると考えられている。

 

素粒子物理学の標準モデルでは、物質と反物質の間にほとんど違いはない。しかし、我々の観測可能な宇宙は物質だけで構成されているのが現実である。もし反物質がああったとしても物質と衝突して、γ線を生成して消滅する。いうまでもなく宇宙になぜ物質しかないのかを理解することは、粒子物理学における最も大きな未解決問題のひとつである。

 

標準モデルの矛盾を解決するために、新たに素粒子を追加する理論を検討している。これらのモデルのひとつは2ヒッグスボゾンモデルと呼ばれ、実際には4個の余分な素粒子が追加される。このモデルは、これまでに行われたCERNのLHCを含むすべての素粒子物理学の観測結果に矛盾しないが、物質-反物質不均衡問題も解決できるかどうかはわかっていなかった。

 

ヘルシンキ大学のチームが率いる研究グループは、さまざまな角度からこの問題に取り組み、ビッグバン後の約10ピコ秒(ヒッグスボゾン導入期)、宇宙は粒子の高温プラズマであった。このホットプラズマを記述する理論を、より単純な量子論に置き換えることができ、新しい規則を導入すると、より重く、より遅く動く粒子はあまり重要ではないことが判明した(Andersen et al., Phys. Rev. Lett. 121, 191802, 2018)。

 

この理論はヒッグスボゾンが活発になったときに、平衡から逸脱しているか調べることができる。2ヒッグスボゾンモデルは反物質がないことを説明し、既存の観察結果を矛盾なく説明出来る。ここで重要なのは、”Dimensional reduction”と呼ばれる手法を利用することで、それによって宇宙の創世記の泡が、雲のように核生成し、宇宙が「曇った空のように」なるまで膨張し(インフレーション仮説)、泡の衝突は重力波をたくさん作り出したと推定された。このモデルを検証するためにヘルシンキ大学の研究チームは現在、ヨーロッパのLISA(注1)(下図)ミッションで重力波の観測を試みている。

 

 

Credit: Wiki

 

(注1)Laser Interferometer Space Anttenaの略。レーザー干渉計宇宙アンテナとはNASAがESA(欧州宇宙局)と共同で開始した重力波天体観測衛星で、現在はESAが2034年の打ち上げを目指している。重力波の存在は2016年にLIGOが検出に成功したことは記憶に新しい。インフレーション仮説の検証には超低周波数の重力波の検出が必要になる。そのためLISAにはLIGOと同じ原理のレーザー干渉計だが低い波長の重力波を捉えることができる装置が搭載される。