ミューオンg因子の精密測定で標準モデルの終焉が決定的に

23.04.2018

Photo: news.fnal.gov

 

ミューオンは電子と同じ電荷とスピンを持つ粒子であるため、磁場中の量子力学的挙動も似ているが質量は200倍大きい。磁場中のスピン歳差運動を決める物理量がg因子である。現代物理では真空の概念は無空間ではなく、生まれては消えていく仮想的な粒子で埋め尽くされている。

 

仮想的な粒子とミューオンに代表される現実の粒子との相互作用が後者のg因子すなわち磁場中の振る舞いを決めている。ブルックヘブン国立研究所チーム加速器実験で決めたg因子は、精度の高い理論計算のg因子とわずかに異なる。理論計算は現在の素粒子物理に基づいたもので計算や実験誤差より大きい差の存在は素粒子物理の骨子(標準モデル)に関わる大問題である。今後予定されている実験でも有意の差が確認されれば、新しい粒子の存在を検証するものとなり標準モデルの修正が避けられない。

 

新しい実験が予定されているフェルミ研究所の円形加速器中でミューオンはリングを周回しながら歳差運動を起こす。加速器の磁場を既知としてミューオンのスピン歳差運動からg因子が導出される。その際、歳差周期と磁場強度の測定精度は10億分の70以下である必要がある。このような精度の高い磁場の更正にアルゴンヌ国立研究所の時期共鳴イメージングが使われる。更正後の17個のプローブはフェルミ研究所の円形加速器の周囲に配置されリング内の10,000箇所で磁場が計測され、3Dマップが作製される。

 

アルゴンヌ研究所の測定系はリサイクルだが、改良されてフェルミ研究所に送られて加速器磁場の計測に有効利用される。ミューオン2と呼ばれるg因子の測定実験は6年も続いた。ブルックヘブン国立研究所からフェルミ研究所へと引き継がれたミューオン2実験は、アルゴンヌ国立研究所が協力した最終う段階を迎える。今回予定されている実験でスピン歳差運動の正確なデータが得られれば、いよいよ標準モデルが書き換えられる。すでに綻びが進んでいる標準モデルが終焉を向けても驚くべきことではないが、ひとつの時代が終わろうとしている。

 

加速器実験といえば終了すれば鉄屑が残ると思いがちだが、そうではない。フェルミ研究所は昔から加速器再利用を進めてきたし、消費文明の権化のような米国だが加速器の再利用はむしろ活発で使える部品は第2第3の実験に有効利用される。今回は3つの異なる研究組織が協力して壮大な実験が完成することは興味深い。

 

 

Credit: inspirehep.net