Credit: Nano Lett.
コロンビア大学を中心とした研究チームはRe6Se8クラスターの層状構造を用いて世界初となる2D半導体を作成した(Zhong et al., Nano Lett. 18, 1483, 2018)。研究チームは劈開して得られた15nm厚の超薄膜(上のAFMイメージ参照)を用いて物性測定を行い2D半導体であることを確認した。クラスターによる2D半導体作成は初めての試みであり、クラスター超薄膜は実用材料として期待されている。
Re6Se8Cl2は1983年に発見された化合物で、原子層単位の構造でなく傾斜したクラスターが積み重なってできた分子性結晶構造である。研究チームはRe6Se8Cl2から劈開した Re6Se8クラスター超薄膜を用いて走査型トンネル分光法、フォトルミネッセンスおよび紫外光電子分光法により半導体物性を調べて、第一原理計算と比較した。
この2D半導体の主な特性は電子バンドギャップ(1.58eV)、光学バンドギャップ(間接遷移、1.48eV)および励起子結合エネルギー(100meV)に代表される。
Credit: Nano Lett.
クラスター同士がファンデアワールス力で緩く結びついている。 Re6Se8クラスター超薄膜の光物性は2D励起子でよく説明できることから、2D半導体であること、すなわち伝導電子が2D面内に閉じ込められていることが確認された。
化合物材料ではペンシルバニア大学の研究チームがCVDでWSe2単原子層を成長しその2D物性を測定した研究が知られている。またバークレイ研の研究チームはハイブリッド有機ペロブスカイトを用いる2D半導体の研究を行なっている。
日本でもかつてアトムテクノロジーという概念の単原子デバイスを目指す動きがあった。原子を構造単位とするデバイスの概念は新しくないが、原子位置の制御をトップダウン的手法で行うことには限界があることからペンシルバニア大学グループはCVDによる原子層成長を採用した。今回の手法はクラスターを単位とした分子結合をもつ物質を利用するところが新しい。
今回の研究はクラスターを使ったことで、安定で幅広い物性から適切な材料を選択できることが特徴である。これまでクラスターの半導体材料への応用は3D(バルク)に限られており、クラスターによる2D半導体は今世界初となる。ハイブリッド有機ペロブスカイトや今回のクラスター超薄膜は新しい機能を有する2D半導体を設計することが現実的になってきた。どちらも有機、無機のハイブリッド物質だというところが共通点であり、ようやく半導体が共有結合のみでできているという枠が取り払われたことによるブレークスルーと言えるだろう。