Photo credit: Open Biology
近年、癌免疫療法は目覚しい進歩を遂げたが、日本ではいまだにほとんどの病院ではタブーである。標準療法は代替療法に勝るというドグマに忠実な医師たちが目を背け、標準療法とされていないのは何故なのか。
ライデン大学メディカルセンターの病理学研究チームはT細胞のチェックポイント封鎖療法(注1)の患者の治療後(例えば黒色腫、非小細胞肺癌、膀胱癌との不整合による修復欠損癌)の固形癌のいくつかのタイプについて調べ、腫瘍免疫および癌免疫療法の標的として腫瘍突然変異抗原(ネオ抗原)の”突然変異による癌”の治療において特に有効であることを明らかにした(Van den Bulk et al., Open Biology, online June 6, 2018)。
(注1)T細胞のチェックポイントとは免疫応答のプロセスにおいてT細胞受容体(TCR)の抗原認識を調節するための一種の共刺激および阻害シグナルである。癌細胞は、細胞の構成成分を抗原として細胞表面に表現している。T細胞は細胞表面にこれらの抗原を認識することによって、攻撃するかどうかを決定している。
論文は癌免疫療法における最新技術をレビューし、広範な患者群に免疫療法は有効であるとしている。免疫療法はすべての患者に有効であるわけではないが、現在の技術でも短期間でネオ抗原を同定でき、免疫療法的介入を受けやすい腫瘍の数を増加させることができる。
免疫チェックポイント抗体治療
研究チームは、最も一般的な癌のひとつである結腸直腸癌を対象とした調査を行った。免疫抑制には、T細胞上に発現している免疫調節受容体が関わっている。癌細胞の抗原には、自己に由来する分子と、癌細胞の遺伝子不安定性によって生じた遺伝子変異に由来する分子がある。
後者は、免疫系がこれまで出会ったことがない分子であるため、癌細胞に特異的な腫瘍変異抗原(ネオ抗原)として認識され、強いT細胞応答が起きる。そのため、これらの抗原を多く発現している場合は、免疫チェックポイント抗体治療が効果を発揮する。
研究チームによれば癌免疫療法は大きく進歩しており、特に、癌細胞が遺伝子変異に由来する分子を抗原として持つ腫瘍には、T細胞チェックポイント抗体療法が有効で、突然変異抗原性の低い腫瘍も、免疫系に新抗原を提示する可能性がある。
オーダーメード癌治療への道
免疫療法がすべての患者に適用可能であることを意味するわけではないが、異なる腫瘍の生物学的反応を検査することで、標的とする腫瘍の範囲を広げることができる。免疫療法が標準療法とならない理由は、対象が癌細胞が遺伝子変異に由来する分子を抗原として持つ腫瘍に限られるためである。
患者の癌細胞の性格を調べて治療法を決定するオーダーメード治療法の時代に入った。時間的、コスト的に採算性が低いというだけの理由であれば、病院がオンコタイプDXなどの治療効果予測検査法を導入すればいい。そうした手間を惜しんで病院はマニュアル通りの癌治療を標準療法にこだわるのは何らかの利益構造(機器メーカーや薬剤会社)を疑いたくなる。時代遅れの医療を受けないためには患者側も知識をつける必要がありそうだ。
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