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IEAの予測によれば2040年までにEV総数は4000万台となると見込まれている。現在最も強力な磁石はネオジム(Nd)磁石(Nd2Fe14B)である。主原料のネオジウム以外にもテルビウム(Tb)やデイスプロシウム(Dy)など、希土類元素が使われる。2010年に中国産のネオジウム価格は30%下落したが、世界的なEV増産のために希土類金属の価格は増大傾向が続いている。トヨタ自動車はこのほどネオジウム使用率が従来の50%となるEV用の耐熱磁石を開発した。
現状のネオジウム利用を継続すれば、原料不足は深刻になりEV(PHV)とHV生産への影響は避けられない。従来のEV用モーターの磁石は希土類元素(Nd, Tb, Dy)の使用比率が30%であった。新型磁石ではネオジウム利用率が低減されたばかりでなく、高温特性(注1)の向上に使用されていたテルビウムやデイスプロシウムを使用しないことが特徴である。
(注1)キュリー温度(315C)はデイスプロシウム1%添加で15C向上する。トヨタの他のメーカーは貴重な資源であるテルビウムやデイスプロシウムを使う代わりにネオジウム組成を増やして対応している。
新型磁石では構造を改良することで(下図)希少性の高いテルビウムやデイスプロシウムを使用しない上にネオジウム量を半分に減らすことに成功した。新型磁石ではネオジウムの代わりに、価格が1/20のランタン(La)とセリウム(Ce)を使用する。新型磁石のモーターはパワーウインドウやワイパーなどのモーターでは50%、駆動用モーターでは20%のネオジウムが節約できる。
Credit: TOYOTA
EVというとLiイオンバッテリーが注目されることが多いが、実際には少ない消費電力で駆動するモーターとバッテリーマネージメントソフトウエアが同じくらい重要な構成要素である。同様に再生可能エネルギーへの転換においても、最大の電力消費コンポーネントはモーターであり、省エネモーターの普及が鍵となる。
Credit: TOYOTA
再生可能エネルギーに転換後の世界の覇権は、ネオジウム(Nd)を筆頭とする希土類金属資源の供給国が握る。中国は希土類金属資源の8割を握る。日本は大量の希土類金属を備蓄しており20年分の磁石生産が可能とされる。しかしEVばかりでなく再生可能エネルギーの安全保障のため、希土類金属を使用しない技術開発が活発に行われている。
今回の新型磁石開発もその一環である。再生可能エネルギー特定資源についての保護主義政策は世界中の批判にさらされ、中国の輸出規制も効果がなかった。希少資源を有効に利用する技術に世界の期待がかけられている。