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欧州では新規原子炉建設の遅れやドイツの脱原発とデイーゼルゲート問題に後押しされ、水素社会を目指す動きが加速しつつある。25カ国からのエネルギー関係者は、水素技術の研究を増やし、工場に電力を供給し、自動車を運転し、家を暖めるための日常的な水素利用を加速することに合意した(AP)。欧州諸国は、欧州の炭素排出を削減するために、化石燃料の代替として水素の使用を増やす計画を支持している。
ドイツは世界初の燃料電池列車が運行するなど、水素社会への関心が高まる中で、オーストリアのリンツで署名された拘束力のない合意は、既存のガス・グリッドを使用して再生可能エネルギーで生産された水素を配給するという考え方を含んでいる。水素を燃料として使うことは化石燃料の置き換えにすぎないように見えるが、実はそうではない。当面は水素製造に再生可能エネルギーを使うことは、大局的にみれば太陽エネルギーを貯蔵可能な化学エネルギーに変換する、再生可能エネルギーの進歩形なのである。
温室効果ガスを放出する燃料が水素で置き換えられた「水素経済」の考え方は、数十年前からあり、日本は水素社会への転換シナリオに取り組んでいる。水素社会では、風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーの供給変動による問題を解決できる。これらの供給源から発生した電気を水素に変換することにより、エネルギーを大きなタンクに貯蔵し、必要に応じて再び放出することができるからである。
EUは、2015年のパリ協定の下で水素が炭素排出削減の義務を果たすのに水素社会が有効であるとしている。背景には原子炉数が減少の一路をたどる中で、天然ガスの輸入を減らすエネルギー安全保障政策がある。大部分は現在ロシアやEU外の国からの輸入に頼っている。エネルギーの貯蔵と輸送の手段としての水素の使用で化石燃料の代替エネルギーへの転換が加速すると考えられている。
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水素社会ではエネルギーを化学エネルギー(水素分子の結合エネルギー)に貯蔵しておき、火力の燃料や燃料電池で電力に変換する100%クリーンエネルギーに立脚する。もちろん水素製造過程で温室効果ガスを排出したのでは意味がないので、太陽エネルギーを使って人工光合成や光触媒で水分解を行うのが理想的である。水素社会というと荒唐無稽な話として特に、原発推進派の批判の対象となるが、水素は製造から輸送までの供給システムと燃料電池の車(FCV)や電車、バスなどの公共交通機関に採用されつつあり、現実には静かに進行している近未来技術なのである。
人工光合成や光触媒の実用化にはまだしばらく時間がかかるが、米国エネルギー省は空気中のCO2を太陽エネルギーを使って燃料を製造する広義の人工光合成の研究開発に力をいれている。日本でもNEDOや東大を中心に光触媒や人工光合成研究が行われている。トヨタ、HONDAはFCVを市販開始しており、水素社会への道を歩みだしたところである。実際には水素社会への転換は急速ではなくエネルギーの多様性の中で、育成していくべきものである。
欧州が先導するのか、日本が持つ水素関連特許を背景に技術力で潮流をつくるのか、興味のあるところだが、いずれにしてもカーボンニュートラル社会に向けた展開が加速していくことは間違いない。日本が得意な水素関連技術は技術立国で生き残るのに格好の武器となるだろう。潮流を見極めてスイッチを切り替えるタイミングを失わないようにしたい。
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