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1960年代に描かれた未来社会を支えるとして希望を抱いてきた原子力発電に終焉が早くも訪れようとしている。推進派の中にも内心ではそのことに気がついている人たちも多いのではないだろうか。原子力先進国である米国や英国にその現実が重くのしかかる。
原子力発電は、今後30~40年の間に「米国エネルギーシステムの脱炭素化に大きく貢献することができるか」と言う命題に、カーネギーメロン大学の研究チームが出した結論は否定的である。
カーネギーメロン大学の研究チームは最新の論文で、現在の米国内の原子力発電所を調査した結果を発表した。この30年間米国発電の約20%が原子力によるが、これらの原子炉は老朽化しており、低コストの天然ガスとの競争とともにそれらを維持するコストは、今日の電力市場において競争力を喪失し原子力の未来は悲観的である(Morgan et al., PNAS online July 2, 2018)。
老朽化した原子炉の代わりに、先進的な設計の次世代原子炉が今後数10年の間に米国エネルギー市場で重要な役割を果たすかどうかを検討した結果、彼らは出力1000MW以上の大型原子炉についてはNOと結論づけた。その後、小規模の軽水炉の可能性を検討した。①再生可能エネルギーのバックアップ、②工業プロセスのための熱利用、③軍事基地電源などの用途を検討した結果、現在の市場環境と政策環境を考慮すると、原子力利用が悲観的であると結論せざるを得なかった。
米国の原子力利用は実質的に終焉を迎えたことが結論である。原子力推進派や環境保護団体の論理とは別の観点、経済性、から競争力を失っているのである。炭素排出についてもバイオマス同様に燃料ウランの採掘、精製、輸送、再処理、廃棄プロセスを総合すれば、環境保護の根拠は薄い。安全性や炭素排出を含めた原子力の全体像が見えてきたところだが、印籠を渡したのは皮肉なことに経済性であった。
米国を「先進国」と置き換えても成り立つ未来像だが、発展途上国の需要に答える市場は存在するものの、高騰する建設コストや安全保障を含めれば決して見込みのある事業では無い。夢に描いた原子力時代の終焉が近いことを認識し、客観的な事実を認めて「夢からさめる」べき時が来たのだろう。
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