蛋白質の進化における構造的容量要素と疾患の関係

14.09.2018

Photo: sciencedaily

 

ダーウィンの自然選択による進化論は、一部に綻びを見せてはいるが、自然界の観察と研究所内の研究で根強く支持されている。後者の「実験室進化」に相当するランダム突然変異と機能選択を組み合わせた酵素を利用して、その機能を1,000倍以上改善することに成功しており、心臓発作(β遮断薬)の再発を防ぐために使用される合成薬物から、腫瘍標的治療薬の開発に至るまで、蛋白質の進化を科学的な証拠が得られている。

 

生命が30億年以上前に始まったときにどのようにしてランダム(混沌)の中から秩序(生命)が生まれたかは、放電スパークによるとされ謎に包まれたままである。モナシュ生物薬学研究所の研究チームは、多くの異なるタイプのヒト疾患、特に様々な癌に関連する変異蛋白質の「構造的容量要素(Structural Capacitance Elements)」を特定した(Li et al., J. Mol. Biology 430 3200, 2018)。

 

構造的容量要素は、突然変異の導入後に特定のミクロ構造に凝縮する蛋白質内に局在する無秩序領域である。彼らは核生成の種子、すなわち進化のための「原料」として働き、古典的なダーウィンの進化のゆっくりとした段階的な過程を補完して、自然選択によるダーウィン進化の加速メカニズムとなることを見出した。

 

 

Credit: J. Mol. Biology

  

 突然変異が機能獲得

構造生物学者の間で支配的な考え方は、蛋白質構造を破壊する変異が病気を引き起こしているという「構造機能喪失」というパラダイムである。しかし蛋白質の40%以上は明確な結晶構造を持たない。研究チームは、疾患関連変異の多くを分析し、これらの「構造的容量要素」が、以前に存在しなかった構造を誘導することによって、突然変異が機能獲得を引き起こす可能性があることを見出した。

 

この結果は蛋白質構造の進化の理解につながるばかりでなく、高度に進化可能な蛋白質の工学、ヒト疾患エピトープ(注1)の同定と選択的標的化についての理解が進むものと期待されている。

 

 

(注1)抗体は抗原の特定の構造単位を認識して結合する。エピトープはその構造単位。