農作物への負の効果となるジオエンジニアリング

09.08.2018

Photo: carbonbrief

 

カリフォルニア大学バークレー校の研究チーム新しい研究によると、微粒子を大気中に噴霧して太陽光を遮蔽し地球を冷却し、気候変動の温暖化効果に対抗することは、地球温暖化による作物被害を相殺するものではないことが明らかになった(Proctor et al.Nature online Aug. 08, 2018)。

 

火山噴火の過去の影響と、太陽光照射の変化に対する作物の反応を分析することにより、日照時間の減少による生産性の低下によって、気温が下がっても農作には影響が反映されない。この発見は、地球温暖化の影響を人類が管理するのを助けるとされてきたジオエンジニアリングの真実が見えてきた。

 

そのパラドックスとは植物をより低温に保ち、植物の生育を助けるが、植物もまた日光を必要とするので、太陽光を遮ると成長に影響を及ぼす可能性があることだ。農業にとって、太陽のジオエンジニアリングの意図しない影響は深刻である。 いつしか地球温暖化の対策として世界中の空を実験的なスケールで微粒子が噴霧されているが、本格的なジオエンジニアリングはもっと格段にスケールの大きい、費用が必要となる。これまでもその効果について疑問が多かったがこの研究によって農業への逆効果が明らかになった。

 

太陽のジオエンジニアリングを理解する上での問題は、実際にこの技術を導入しなければ、惑星規模の効果を評価できないということであった。しかしこジオエンジニアリング効果は過去の巨大な火山噴火の影響を研究することによって可能になった。

 

過去の火山噴火から学ぶ

実際、大規模な火山噴火の際に放出されるガスに起因する地球規模の冷却は過去の事例で推察できる。 1991年にフィリピンのピナツボ島火山は、人類が意図的に大気中に硫酸塩エアロゾルを注入して人工的に地球を冷やし、二酸化炭素の増加による温室効果を緩和できると主張する根拠となっていた。エアロゾル(硫酸の微小な液滴)は、太陽光を反射し地球の平均気温を低下させた。ピナツボ火山噴火では大気中に約2,000万トンの二酸化硫黄を注入し、太陽光を約2.5%減少させ、平均気温を約0.5C低下させた。

 

研究チームは、1979年から2009年の間に105カ国のトウモロコシ、大豆、米、小麦の生産を、これらのエアロゾル分布と比較して、農業への影響を研究した。これらの結果を地球規模の気候モデルと組み合わせると、チームは、硫酸塩ベースのジオエンジニアリングプログラムからの農業への気温上昇効果の対価にそぐわないことを見出した。

 

Credit: Stephen McNally and Hulda Nelson, UC Berkeley

 

植物成長に寄与しない散乱光

成層圏の硫酸塩エアロゾルは、1991年に大量に発生したピナツボ山の噴火の後、数ヶ月の間に地球を回って均一に地球を覆った。以前の研究では、エアロゾルが太陽光を散乱させ、散乱光で収穫量を改善する可能性を示唆したが、散乱光の効果はそれほど大きくない。つまり太陽光が遮られれることで植物の光合成能力が低下し、気温の低下で二重のダメージとなるのである。

 

この研究以前は、太陽光の遮蔽の正味の影響は散乱光で相殺される以上のプラスになると考えられていたが、散乱光が収率を低下させるということが明らかになった。またジオエンジニアリングの効果の評価には二酸化炭素の捕獲や貯蔵、地球の保護オゾン層への影響、地球環境に影響などを総合的に吟味する必要がある。

 

ジオエンジニアリングに黄信号

しかし正当な評価や国民の同意なしにすでに膨大な資金が小規模な(効果がない程度の)ジオエンジニアリングの実験が世界中で行われている。空を見上げて縦横に直線上に伸びる一見すると飛行機雲のように見えるケムトレイルがそうである。その根拠がこの研究で否定され、ジオエンジニアリングに黄信号が灯った。