世界で金融機関同士が使用する国際決済の通信システムSWIFT(国際銀行間通信協会)は世界200カ国以上、金融機関11,000 社以上が利用している。このドル中心の国際決済とは別に、ロシアの独自の送金ネットワークSPFSと中国が開発した人民元のCIPS決済システムに加えインドが開発中の独自システムを共有できる「ユーラシア」版国際決済システムの構築が進んでいる。
国際貿易の多くはドル建てで、ほとんどの海外送金はSWIFTを通じて決済されている。しかし、ドルに限らず、SWIFTを通じてドル以外にも26の通貨で決済が行われている。
近年米国は経済制裁として外国政府、個人、企業の資金決済の凍結などの外交政策を実施するのにSWIFTシステムを活用してきた。イラン、イラク、ロシアなどはその影響を受けてきた。
その結果、欧米からの影響から逃れ、サイバー攻撃からの防衛、ドル建て決済離れとして、ロシアや中国は独自の決済システムの開発に踏み切った。ロシアはクレミア併合問題で経済制裁を受けていた2014年にルーブル中心の独自システムSPFSの開発を開始した。2017年末には使用が可能となり、ブロックチェーン技術の導入も進められている。現在世界最大の天然ガス企業のガスプロム、ロシア最大の国営石油会社のロスネフチを含む400以上の会社と政府機関が利用している。今ではロシア国内では決済取引の15%まで占めるようになってきた。
中国もドル離れ、増加する中国貿易の対応や世界で中国元の影響力を高める目的で、2015年に人民元を中心とする国際銀行間決済システムCIPSを開始した。中国は人民元建ての貿易や投資の決済取引を効率的に行うことができ、主に中国との送金取引が多い海外銀行の参加が増え、CIPSを利用する取引が拡大傾向にある。
イランを含む他のロシア主導のユーラシア経済連合の参加国はロシアのSPFSシステムの導入に動き出した。BRICS参加国のインドも独自システムの開発を進めている。
「ユーラシア」版の国際決済システムはロシアのSPFS、中国の CIPSとインドが開発中のシステムを相互接続する「ゲートウェイ」の役割を持つことになる。この決済システムが構築されても、SWIFTシステム又はドル建て決済方法が無くなるものではないが、利用が減少していく傾向に向かうであろう。欧米の主要先進国の政治的影響力の弱体化に加え、欧米が中心となっていた貿易などの経済活動がユーラシアに移行していることを表している動きである。
特に米国の世界における経済力、地政学上の影響が衰退していることで、米ドル建てのペトロドラー制度の崩壊は加速している。その一方で、世界最大の原油輸入国となった中国は中国人民元、世界最大のロシア天然ガス企業はルーブルでの支払いを自国の決済システムを通じて行うのはおかしくない。自国の決済システムを使うことでコスト削減や処理時間の短縮といった効率が得られ、さらに通貨の国際化と政治的影響力の向上につながると考えられる。