年金改革案で政治混乱に向かうフランス

18.12.2019

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 フランス全土で5日に始まった政府の年金改革に対する反対デモは尚も続いている。17日には13日目を迎える反対デモは、政府の改革案撤回がない限り労働組合は大規模ストを続ける予定である。1995年には、クリスマス直前まで約3週間続いた地下鉄や国鉄のストによる社会的混乱により政府が年金改革を断念した。今回も同様な状況に持ち込む勢いをみせている。
 
 フランスにおける公的セクターの雇用は世界でも高く、5人に1人は公務員である。福祉国家として知られているノルウェー(30.0%)、デンマーク(29.1%)、スェーデン(28.6%)、フィンランド(24.9%)の北欧諸国に続いて、先進国ではフランス(21.4%)が最も高い。そのため、政府の公務員年金負担も高い。

 

 戦後最大の改革となる今回の年金改革は、1995年当時のシラク政権において、3週間にわたる大規模ストにより政府が改革を断念した以来のことである。国鉄、地下鉄やバスなどの公共交通機関、学校、病院、警察、消防隊、航空管制、航空会社、放送局、ごみ収集、原子力発電所、弁護士、港湾労働者、パリオペラ座職員など、現在職種ごとに42種類ある年金制度の一本化を目指す改革である。そして、今回の反対ストに参加しているのがこれらの公務員である。

 平均的に60歳で退職するフランス公務員は欧州諸国平均より3年早い、OECDの平均退職年齢より4年早い。今回の年金改革では、年金受給年齢を一律に64歳に引き上げ、年金受給額の算出方法も一本化することが狙いである。政府の年金負担はGDPの14%を占め、欧州諸国ではギリシャやイタリアに続いて最も高い。マクロン政権は、現在の年金制度を維持する財務負担が大きく、改革を行わなければ2025年には約170億ユーロ(約2兆円以上)の赤字に達することから改革が必要と主張している。

 昨年から続いている「黄色いベスト運動」は反年金改革デモの支持を表明、大規模な反政府抗議運動に発展する可能性が高い。2022年に大統領2期目を目指すマクロン大統領は、選挙公約である年金改革を断念すれば支持基盤を失う可能性が高いが、国民の半数以上が年金改革を支持しないなかで年金改革を進めようとすれば、フランス社会はより混乱し、不安定化していくことになる。

Update
 マクロン政権下で年金改革法案原案を作成、同改革の遂行指揮官であったジャン=ポール・ドルヴォワ年金高等弁務官が16日、確定申告の不正疑惑で突然辞任した。原案者で各労働組合との話し合いを行ってきた責任者だけに、年金改革はより難しくなるのは避けられない状況にある。