トランプ大統領がNATO式典で防衛分担金問題を批判

26.05.2017

Photo: gmfus.org

 

 同盟国同士での分担金問題が世界中で焦点となっている。英国のEU離脱に伴いEUが英国に要求した当初の400-600億ユーロであった拠出金の額はユンケル欧州委員長の要望で1,000億ユーロにまで膨れ上がり、英国は拒否する態度をとっている。米国は韓国に対して、THAAD配備費用を補償するよう求め東アジア防衛でも同盟国に相応の負担を要求している。

 

 中東訪問を終えたトランプ大統領は5月25日、NATO首脳との会談でNATOが共同防衛で(GDP比2%では少なすぎるとし)応分の軍事予算を使っていないと批判した。NATOは防衛予算を拡充して同盟国としての財政義務を果たすべきだと訴えた。

 

 28のNATO加盟国中23カ国が必要な財政負担をしていないことは財政負担が集中する米国にとって不公平なことで、無視することはできないとした。この批判は皮肉にも9/11を支援したNATO軍兵士の団結を讃えるNATO記念式典で表明されることとなった。

 

 

転機になった9/11

 9/11では68年の歴史の中ではじめて集団的自衛権(第5条)が発令された。トランプ大統領はアフガン戦争へ有志連合としての派兵について短い感謝の言葉を贈ったものの、8分間の短いスピーチの1/4の時間はNATO加盟国で財政負担を逃れている23カ国への批判にあてられた。

 

 NATO予算は主に本部と加盟国軍隊の指揮系統に予算を使う一方で、集団防衛の兵力は加盟国の軍事予算で賄われている。トランプ大統領が目指すNATOとしての集団防衛力の負担はトランプ政権前からあった概念で、加盟国の軍事予算の拡充が不可欠となる。

 

 これまでシリアでIS勢力が台頭した際に、シリアに隣接するトルコがNATO加盟国であることから10年でGDP2%の集団防衛予算に向けて加盟国が努力することになっていた。トランプ大統領の発言は防衛力の近代化には2%では不足としている。トランプ政権は対ロシア戦略に加えて、対テロ防衛と移民対策をNATOの重要戦略に位置づけている。

 

欧州議会との微妙な温度差

 欧州議会のタスク大統領は報道陣に対して米国と欧州で立場が異なる対ロシア政策に関して個別懇談を行うとコメントした。防衛費の追加負担に関しては意見の違いを認め、基本方針を変える考えがないことを明らかにした。シシリー島で27日に開かれるG7でトランプ大統領は批判の対象となる主要加盟国の首脳と直接会話を予定している。

 

 防衛予算の不公平さは米国民への説明責任が果たせないとしたトランプ大統領の批判は選挙公約のアメリカ国内優先政策に矛盾しないが、膨大な債務超過をオバマ政権から引き継ぎながら一方で、防衛力近代化と雇用問題の解決のため、国防費増大を決定しなければならなかったことが背景にある。