Photo: nknews
8月29日早朝、北朝鮮が火星12号とみられる弾道ミサイルを発射し、弾頭は北海道の渡島半島上空を通過し襟裳岬の東約1180kmの海上に落下した。日本中がミサイル発射を伝える警報に驚き、北朝鮮が今後も継続する意思を明確にしたことでミサイル発射に気を取られている。
核兵器開発が加速していることと2016年の建国記念日(9月9日)に北朝鮮が5回目の核実験を行ったことを考慮すると、今年の9月9日に核実験を行う可能性は否定できない。韓国情報局は議会に北朝鮮は6回目の核実験の準備に入ったことを伝えた。豊渓里(プンゲリ)核実験場のトンネル4は工事中だが、トンネル2と3は核実験の準備を完了したとしている。
Credit: New York Times
これまでの北朝鮮の核実験の歴史を振り返り核開発の流れを整理すると次回の核実験の狙いが明確になる。
2006年10月8日
北朝鮮は最初の地下核実験(2kトン)を行い8番目の核保有国となった。朝鮮半島で記録された地震波の規模はM4.2であった。国連は核兵器と弾道ミサイル開発を禁止し制裁を課した。
2009年5月24日
2年半後に北朝鮮は国連決議に反して8kトン級地下核実験を行った。この核爆発による地震波はM4.7であった。
2013年2月12日
北朝鮮は最初の核実験から7年後に中国の制止を無視して17kトン級地下核実験を行った。北朝鮮発表では水爆実験としているが規模からみて専門家は疑問を投げかけた。この核爆発による地震波の規模はM4.9~M5.2であった。
2016年1月5日
北朝鮮は水爆と称する4-6kトン級地下核実験を行った。この核実験の地震の規模はM4.8~M5.1であった。この実験でも規模から水爆実験の可能性は低いとされる。
2016年9月9日
北朝鮮は水爆と称する10kトン級地下核実験を行った。この核実験の地震の規模はM5.3であった。5回目となる2016年9月の核実験は規模が4倍に拡大されるとともに実験までの間隔が短くなっており、改良あるいは進化が加速していることがわかる。
Credit: straitstimes
北朝鮮が過去に行った核実験で使われたのは原爆で、初期の実験では初歩的な爆縮型原爆(長崎型)と考えられている。後半ではブースト型(D-T強化方式)と呼ばれる中心に熱核反応(核融合反応)を起こし爆発力を高める重水素と三重水素の混合気体(上図の赤い部分)を配置したものが使われた可能性が高い。
原爆の一般的な進化は爆縮型からブースト型を経てプルトニウムコアと爆縮爆薬との間に熱核反応燃料を配置するものやプルトニウムコアの隣に配置する2ステージ型から熱核反応燃料を完全に分離した2ステージ型(擬似水爆)のを経て水爆に至る。核開発はこれらの段階を経て行われるためそれぞれの段階で実証実験が必要となる。非核拡散条約によりデータ先進国ではシミュレーションで実験の必要が少なくなったがそれは実験データの蓄積が豊富でシミュレーションの精度が高いせいである。シミュレーションで済ませられるとしてもその精度は実験データにかかっているため、初期の実験は不可欠となる。
ブースト型核分裂爆弾(原爆)に比べて核融合爆弾(水爆)の爆発力は桁違いとなるが一方では弾頭に搭載できる重量が制限されているため、北朝鮮が弾道ミサイルでの運搬を主眼に置いた場合、必ずしも核融合爆弾の製造に踏み切るかは疑問が残るが、弾頭用のブースト型核分裂爆弾の実戦配備前に核実験を9月9日に行う可能性は高くなった。